- 開催日:2018年7月25日
- 講師:洛和会音羽病院 アイセンター 医長 医師 大槻 紘平(おおつき こうへい)
はじめに
人が外部からの情報大半を目から得ていることは、よく知られています。一方で、加齢により、白内障に悩まされる人もおり、白内障の手術治療にも関心が高いと思われます。本日は、まだ新しい施設ですが、目の病気を専門的に検査し、治療する洛和会音羽病院 アイセンターで行っている白内障手術の最前線についてお話ししたいと思います。
「見える」仕組みとは
まず、目が見える仕組みから説明しましょう。
図は、眼球を断面で切ったところで、瞳を通して物が見える様子を模式的に捉えたものです。水晶体を通して入った物の像は、網膜に映って視神経に伝わります。目はよくカメラにたとえられます。水晶体はカメラで言うとレンズに、網膜はフィルムに当たります。光は黒目から奥に入っていき、水晶体を通過して網膜にピントを結びます。そこで得た情報が視神経を介して脳まで運ばれていき、初めて物が見えます。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
白内障とは?
水晶体は中央に核、その周囲に皮質があり、外側を水晶体嚢(のう)という袋が包んでいます。袋からはチン氏帯と呼ばれる糸がつながっており、眼内で支えられています。白内障は、カメラのレンズ部分が白く濁り、光が通りにくく、見えづらい状態になります。
図の左側は正常な水晶体です。水晶体が透明で光がよく届いていますが、右側の白内障では水晶体が濁り、光がそこで遮られてしまうため、見えにくくなっています。
白内障の見え方
白内障の見え方は、左側の正常な人の見え方とは違い、右側のように白いもやのようなものがかかって見えるほか、明るいところでまぶしいなどの特徴があります。
それ以外の症状としては、目のかすみ、視力の低下、明るいところでのまぶしさ、物が二重、三重に見えることです。
白内障の程度
濁りの程度を写真でみましょう。
上の写真が正常な水晶体です。下の4つの写真が白内障です。
左から順に初発白内障、未熟白内障、成熟白内障、過熟白内障です。この順に病気が進んでいきます。
長年放置しておくと成熟白内障と言って水晶体が真っ白の状態になります。さらに進行すると、過熟白内障と言って水晶体が溶け始める状態になってしまいます。
白内障の原因と治療
治療としては点眼と手術があります。点眼は進行を遅らせる効果はありますが濁りがとれるわけではありません。
濁りをとる方法は手術しかありません。以前は傷口を大きくあけて水晶体の中身あるいは袋ごと丸ごと取り出す手術を行っていました。大きな傷口だと糸で縫わないと閉じないので縫うのに時間がかかっていました。たくさん縫うとそれだけ乱視もでてしまいます。
最近は技術が進歩し、超音波乳化吸引術といって2~3mm程度の小さな傷口から器具を挿入して、水晶体を細かく砕いて吸い込む手術を行うことがほとんどです。小さな傷口で済みますので縫う必要もなくなり時間も大幅に短くなりました。また乱視もほとんど出ません。
最近の白内障手術
専門用語になりますが、最近最もよく行われる術式が、超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術と呼ばれる術式になります。
簡単に言うと濁った水晶体を取り除く代わりに眼内レンズを入れるということになります。
最初に、黒目と白目の境目にメスで切れ込みを入れます。黒目がひしゃげないように粘弾性物質というジェル状の物質を注入します。水晶体の袋の前の部分を円形にめくります。そうすると濁った中身が出てきます。超音波の機械を用いて濁りを吸い込んでいきます。きれいに吸い込めたら水晶体の袋の中に粘弾性物質を注入ししっかり袋の中をふくらませます。そして眼内レンズを挿入します。レンズは最初くるまっていますが目の中に入るとゆっくりと広がります。弾力のある素材です。最後に粘弾性物質を吸い込みます。手術時間は5分から10分ほどです。
手術後にも合併症が
手術は短時間で安全にできるようになりましたが、決して簡単ではありません。頻度は低いですが合併症も起こりえます。
術中合併症としては専門用語になりますが、後嚢破損、硝子体脱出、チン氏帯断裂、水晶体落下、駆逐性出血などがあります。
術後合併症としては後発白内障、網膜剥離、感染性眼内炎があります。
後発白内障とは、文字通り、後から発生してくる白内障です。レンズと水晶体の袋の間において濁りが再度増殖してくる状態です。この場合手術前のような見えにくさが起こってきます。
レーザーで袋の後ろ部分を切開し、濁りを飛ばすことですぐに視力が回復します。こちらは手術室に入っていただく必要はなく外来で行えます。レーザーの処置による痛みはありません。
網膜剥離、感染症眼内炎が起こった場合は、それらに対する手術が再度必要となります。
白内障手術後に大変革が到来!
合併症の頻度は非常に低いですが、あらゆる可能性をきちんとお話ししておかなければいけないので怖い話ばかりになってしまいました。
ここで皆さんに朗報があります。白内障手術に大変革が到来しました。それはレーザー白内障手術とプレミアム眼内レンズです。
まず、レーザー白内障手術についてです。これまでお話ししてきた白内障手術は医師の手によって行われる手術ですが、レーザー白内障手術では、途中までの工程をレーザーが行ってくれます。レーザー白内障手術では「Lensx(レンゼックス)」と言う機械を使います。特殊なコンタクトレンズを眼につけて固定します。そして前眼部写真を撮り、個人ごとの眼の状態に合わせて手術の計画を立てます。その後レーザーを照射していきます。
レーザーで行うこと
レーザーで行うことは角膜切開、前嚢切開、水晶体分割の3つの工程です。そして水晶体吸引、眼内レンズ挿入は医師の手で行います。
レーザー白内障手術では、コンタクトレンズを目に直接付けて固定します。レーザーによって、水晶体の袋の前面の切開、水晶体の分割を行います。角膜に切れ目を入れます。レーザーは1000兆分の1秒という、ごく短い時間に、組織内の1000分の1mmよりも狭い範囲を照射します。最後に水晶体を吸引します。
レーザーによってある程度分割することができるので、吸引が楽になります。レーザー照射自体の時間は約1分弱です。そのあとの工程を含めると約15分ほどです。洛和会音羽病院 アイセンターは、レーザー手術専用の部屋を設けております。このレーザー機器は他院ではほとんど扱っておらず大学病院でも扱っているところは少ないようです。このレーザーが当院の特徴の一つとなっています。
プレミアム眼内レンズについて
続いて、プレミアム眼内レンズについてお話しします。種類は、ワンピーススリーピース、着色非着色、球面非球面、乱視非矯正乱視矯正、単焦点多焦点とさまざまあります。
当院では、プレミアム眼内レンズと呼ばれる乱視矯正レンズ、多焦点レンズを扱っております。単焦点レンズでは、遠くにピントを狙うと近くはぼやけるので手術後も老眼鏡が必要となります。逆に近くにピントを狙うと遠くがぼやけるので、遠く用の眼鏡が必要となります。しかし、多焦点レンズでは、遠くと近くの両方にピントを合わせることができるので、眼鏡の依存度が減ります。
ただ、気を付けていただきたいのは、多焦点レンズは保険診療外になるということです。ただし、先進医療特約付きの保険に加入されている場合は全額返金されますので、手術を行う前に、保険会社に問い合わせていただく必要があります。多焦点レンズはさまざまな種類があります。先進医療特約対応のものや、乱視矯正機能が付いているもの、遠近にピントが合う2焦点レンズ、遠方、中間、近方にピントが合う3焦点のものとさまざまです。
当院は、患者さんのライフスタイルやご希望に添ったレンズの選択が行えるように努めています。白内障手術を迷われている方は、お気軽に受診してご相談ください。
プロフィール
洛和会音羽病院 アイセンター 医長
大槻 紘平(おおつき こうへい)
- 専門領域
白内障、網膜硝子体疾患 - 専門医認定・資格など
日本眼科学会専門医
日本水晶体嚢拡張リング(CTR)講習会受講修了
PDT認定医
眼科ボトックス療法認定医
洛和会音羽病院 ホームページ
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TEL:075(593)4111(代)