楽しく役立つ健康講演会

医療

身近でこわい! 脱水の話

~そもそも脱水って何?
何がこわいの?~

投稿日:2019年5月23日 更新日:

はじめに

私は昨年度、厚生労働省の「栄養・水分に関わる薬剤投与関連」という特定行為研修を修了した水分管理について詳しい特定看護師です。
学生時代に訪問看護の実習を受け、そのとき訪問先で見た患者さんの笑顔が忘れられず、訪問看護師になりたいと思ってきました。看護師になって10年目、訪問看護師歴は7年です。
話の前に、まだ知名度の低い訪問看護について紹介させてください。訪問看護師は、かかりつけのお医者さんが「訪問看護が必要です」と判断された方のお宅に1日4~5件訪問します。体調確認やお風呂の介護、療養相談、床ずれなどの傷の処置、点滴などをします。リュックを背負って自転車で回っています。私のいる訪問看護ステーションは11人の看護師がいて、さまざまな分野の経験者がそろっています。

これから増える脱水

これからが脱水になる人の増える時期です。実は訪問先でも、5月下旬から6月ごろにかけて「体がだるい」という利用者が多いです。調べると、理由は脱水。水を飲んでもらうと治ります。5、6月はまだ世間で脱水症状の話が出ていないので、皆さん脱水になっているのに気付きにくいです。
今日は新聞やテレビで詳しく伝えられていない、脱水の少し突っ込んだ話をさせてもらいます。脱水のメカニズムや怖さを知って、ご自身に合った脱水予防の方法を考える材料にしてください。

私が出会った脱水症状の例

私の体験です。昨年のこの時期のことですが、週1回訪問看護で訪れている一人暮らしの80歳代の男性宅に行ったときです。日当たりの良いマンションで、最高気温28度を超す日が数日続いていました。
男性は訪れる2日前から「なんだか体がだるい」と仰っていました。ご飯は普段通り食べておられましたが、お茶は食事のときに湯飲みに1杯程度飲まれるだけでした。訪問すると、意識はありましたが、ベッドの上でぐったりしておられました。汗が乾いて、体の皮膚が熱く、口の中がカラカラでした。
熱中症の状態だったので、保冷材で腋(わき)と首、足の付け根を冷やし、スポーツドリンクを少しずつ飲んでもらいました。今回は意識がはっきりしていたのでこの対応をしましたが、意識がはっきりしていない場合は、飲み物はむせてしまうから厳禁です。
訪問診療の先生に連絡し引き継ぎ点滴を受けて体調が戻った夕方、ご本人から「ありがとう」と電話が入りました。
看護師の判断でこのような対応をしましたが、皆さんがこういう場面に出合ったとき、お年寄りの意識がほとんどない状態でしたら、すぐに救急車を呼んでください。

冬場の脱水も多い

訪問看護をしていると、実は冬場にもよく脱水症状に遭遇します。
冬場はこたつで過ごす時間が長かったり、ストーブを使ったりすることが多く、夜もしっかり着込んで毛布や電気毛布で保温して休むことが多いためです。
加えて、冬場なので水分摂取の必要性を感じず、摂取量が減るのことも脱水につながります。

脱水って何?

次の図を見てください。
体に1日に入ってくる水分は、飲料水や食べ物の水分、代謝水を合わせて2,500mℓ。一方、出て行く水の量も尿や汗、便などを合わせて同じ2,500mℓです。
このバランスが崩れ、体から出て行く水分量が多くなった状態が脱水です。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

脱水の原因は?

次のことが脱水を起こす原因になります。

  • 水分摂取が少ない
  • 排せつが多い

発汗過多や多尿(利尿剤の服用や糖尿病の影響)、嘔吐(おうと)・下痢(腸は常に大量の腸液を分泌しているおり、下痢になると多くの水分が体外に排せつされます)

脱水の仕組みは?

そもそも水は私たちの体のどこにあると思いますか?
血管内=血液、細胞内、間質内(細胞の間・リンパ液)の3カ所に水分があります。
含まれる水分は、細胞内、間質内、血管内が8対3対1の比率です。体重50kgの成人男性の場合ですと、細胞内に20ℓ、間質内に7.5ℓ、血管内に2.5ℓある計算になります。

お年寄りになると水を蓄える量が減ります

細胞内で最も多くの水分を保っているのは筋肉です。筋肉は水分の貯蔵庫です。ですからお年寄りになり筋肉量が減ると、水を蓄える力が下がります。
乳児は体の70~80%、幼児は65%、成人男性は60%、成人女性は55%を水分が占めていますが、高齢者になるとそれが50~55%に落ちます。

脱水って、どこから水が抜けるの?

体内の水分は(1)血管内⇒(2)間質内⇒(3)細胞内の順で抜けていきます。この3つの間で水のやり取りをしているのです。そのやり取りの立役者は水と塩分です。
実は細胞内に無制限に水が入って来ると細胞がパンクしてしまいます。そのため体内の水分=生理食塩水(0.9%の食塩水)の塩分濃度が一定になるように、この3つの間で水、塩分をやり取りしています。

ズバリ、脱水って何が抜けるの?

体内の水が抜けやすいのは血管内と間質内です。考えてみてください。汗、唾液、腸液という体液も血液が材料となってできています。汗がどんどん出ることは、血液が減ることなのです。

脱水が怖いのは血液が抜けるから!

簡単に言うと、脱水とは血液の水分が体外に出て減ることなのです。
血液は水分や栄養、酸素を運んでいます。だから血液が胃や腸に十分行き届かないと、消化ができずに吐き気や嘔吐が起きます。腎臓に行かなければ尿の量が減り、脳へ十分に行かなくなれば意識がもうろうとして気絶したりします。全身に行かないと、全身倦怠感が起きます。

体を守るすごいメカニズム

血液内の水が減ると、増やすために細胞から水を供給します。ただし細胞内の塩分量のバランスを保つため限界があります。
また生命維持に重要な臓器への血液供給が優先され、脳や肝臓、腎臓、肺、心臓といった臓器に優先的に血液が送られます。手足や胃は優先順位が低い臓器です。
その際、心拍数を上げて多くの血液を送ろうとするため、胸がドキドキしたりします。

脱水で起きる症状

体重の2%程度水分が失われた場合が「軽症」の脱水症状で、口が渇いたり、立ちくらみが起きたりします。体重の3~6%が失われると「中等症」で黄色い濃縮された尿が出たり、悪心・嘔吐、脱力感、めまい、眼球陥没、起立性の低血圧などが起きたりします。
限界まで気付かないと重症化します。軽いときに早く症状に気付いてください。

予防のために

人間は尿や汗で出る量などを加えて、1日に体重1kgあたり30mℓの水分が必要です。体重50kgの人なら約1,500mℓの水分摂取が必要です。
結構、多く感じられると思いますが、それくらいの水分摂取が必要です。

1日8回に分けて水分摂取を

水分は一気に取っても尿になって出るだけなので、タイミングを決めて回数を分けて飲むのが一番です。
図で示したようなタイミングで、1日8回に分けてコップ1杯程度ずつの水を飲むのがベストです。一番、難しいのが夜です。トイレに起きたときに少しでもいいから取ってもらうといいですね。

日本人は塩分不足を考えなくていいです

もう一つの要素である塩分ですが、日本人は普通にご飯を食べていたら塩分が不足することはありません。
高血圧を予防するなら1日6g未満の塩分摂取とされていますが、調査では日本人の食塩の平均摂取量は男性で1日11.3g、女性で9.6gです。十分、取っています。
ただ寝たきりや体調不良で2、3日ご飯が食べられない状態のときは塩分を十分取れていませんから、注意してください。発汗過多や嘔吐、下痢を繰り返したときも塩分が体外に出て行っているので摂取が必要です。
塩分不足が予想される場合は、経口補水液が効果的ですが、日常的に飲むものではありません。経口補水液は水1ℓに砂糖40g、塩3g、さらにレモン汁をお好みに応じて加えてもらえれば自分でも作れます。

まとめ

脱水の際、水は血管内=血液から抜けていきます。だから命に関わります。
体内の水分のやり取りには水の量と塩分が立役者になっています。どちらが足りなくても脱水症状になります。
脱水は特別な薬や器具がなくても予防でき、早期に対処すれば受診しなくても改善する体調不良です。
皆さん、本日の話を参考にして、この夏、脱水にならないように過ごしてください。

介護サービス

介護サービス ホームページ

洛和会ヘルスケアシステム 介護事業部
〒600-8461
京都市下京区仏光寺通油小路東入木賊山町171
TEL:075(353)5802(代)

カテゴリー1-医療
カテゴリー2-,

関連記事

打った方がいいの? ~インフルエンザワクチンについて~

開催日:2017年9月28日 講師:洛和会音羽病院 感染症科 医長 医師 青島 朋裕(あおしま ともひろ) はじめに 本日は、インフルエンザワクチンについて、分かっていることをお知らせします。正しい知 …

楽しい食事をしよう ~高齢者の低栄養を防ぐ~

開催日:2017年10月5日 講師:洛和ヴィラアエル 栄養科 副係長 管理栄養士 山口 友美(やまぐち ともみ) はじめに 本日は、高齢者が陥りやすい低栄養の問題を中心に、楽しい食事の工夫などについて …

鼻炎と副鼻腔炎の治療

開催日:2017年3月7日 講師:洛和会音羽病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長 医師 荒木 倫利(あらき みちとし) はじめに ※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。 鼻は …

狭心症・心筋梗塞の予防と最新治療 ~あなたも発症予備軍かも!?~

開催日:2018年1月18日 講師:洛和会音羽病院 心臓内科 副部長 兼 ICU/CCU室長 医師 横井 宏和(よこい ひろかず) はじめに 心臓の病気には命に関わるものがあります。今回は、寒い時期に …

狭心症・心筋梗塞の予防と治療

はじめに 寒い時期になり、病院にも狭心症や心筋梗塞で搬送される患者さんが増えています。突然死の原因になる病気です。今日の話を聞いて、予防や治療に生かしてください。 心疾患は死亡率2位の病気 「狭心症・ …