- 開催日:2018年1月18日
- 講師:洛和会音羽病院 心臓内科 副部長 兼 ICU/CCU室長 医師 横井 宏和(よこい ひろかず)
はじめに
心臓の病気には命に関わるものがあります。今回は、寒い時期にもよく起こる心筋梗塞と狭心症について、予防法や最新治療をご紹介します。
心臓とは
私たちの心臓は、1分間に約70回、1日にすると約10万回も「収縮と拡張」のリズムをくり返し、血液を全身に送り出しています。このハードな運動を行っているのが、心臓の筋肉(心筋)です。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
血液量・心拍出量
体内を流れる血液量は、男性で体重の8%、女性で7%(体重50㎏の男性なら4Lが体の中を流れています)。1分間に心臓から送り出される血液の量(心拍出量)は、4~5L。
この量と時間は、ちょうど2L入りのペットボトルの水を逆さまにしてすべて落ちるまで(20~30秒)を2回繰り返したぐらいに相当します。
心疾患ってどんな病気?
心疾患には、以下のような種類があります。
- 不整脈
- 弁膜症(僧帽弁閉鎖不全など)
- 心筋症(拡張型心筋症など)
- 先天性心疾患(心房中隔欠損症など)
- 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
それぞれの疾患が進行して心機能が破綻した状態を心不全と言います。
虚血性心疾患ってどんな病気?
心臓をとりまく冠動脈は、その心筋に酸素や栄養を供給しています。ところが冠動脈に動脈硬化などが起こると、血液の通り道が狭くなったり、ときには血の塊(血栓)ができて詰まってしまうことがあります。そうすると心筋に酸素が届かなくなり、強い痛みをともなう発作が起こり、急速に心臓の機能が停止します。
心臓に十分な血液が行き渡らないために引き起こされる病気なので「虚血性心疾患」と呼ばれます。手当てが遅れると、生命にかかわることもある重大な病気…それが虚血性心疾患である狭心症と心筋梗塞です。
狭心症と心筋梗塞の違い
動脈硬化が進んで、冠動脈の血液の流れが悪くなった状態を狭心症といい、さらに状態が悪化して完全に詰まってしまった状態を心筋梗塞といいます。
狭心症の場合は、胸の圧迫感など一時的な発作ですむことが多いですが、進行して心筋梗塞を起こすと激しい痛みに襲われ、最悪の場合には心臓の停止・突然死を招くことがあります。
急性心筋梗塞患者の14%は、病院に搬送される前に心停止します。
急性心筋梗塞の急性期死亡率(発症から30日以内の院内死亡)は6~7%です。
狭心症と心筋梗塞の予防(動脈硬化の予防)
予防には、動脈硬化にならないように血液をサラサラに保つことが重要です。血管は加齢とともに弾力性が落ちていき、それだけ動脈硬化にもなりやすくなるので、日頃から危険因子を減らすような生活を心がける必要があります。
危険因子には、
- 喫煙
- 高血圧
- 糖尿病
- 高コレステロール
- 低善玉コレステロール
- 肥満
- 家族に狭心症や心筋梗塞になった人がいる
- モーレツ仕事人間
- 加齢
- 体質
などがあります。
このうち高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症の4つを取り上げて危険因子のない人と比較した、狭心症や心筋梗塞の発症リスクは、以下の通りです。危険因子を放置せずに適切な治療をすることが重要です。
心筋梗塞発症の予防
加齢とともに冠動脈の壁に粥状の物質(プラーク)が溜まって血管の狭窄(きょうさく)がおきるのが労作性狭心症です。ところが急性心筋梗塞は、きつい狭窄がない場合でも、プラークがはがれて詰まることで起こります。
心筋梗塞をはじめとする心血管イベントは、早朝に起きやすいことが知られています。起床する際に私たちの体は、交感神経やホルモンが活性化したり、血管の収縮や血液の凝固作用の亢進(こうしん)などが起こります。そこに、「早朝高血圧」と呼ばれる急激な血圧・心拍数の上昇が加わることで、心筋梗塞の引き金になるからです。
発症機序から考えた予防のポイントは、長期的には血圧管理や生活習慣の是正(減塩、減量、運動、節酒、禁煙)によるリスク管理が、短期的には病気の好発時刻およびそのトリガー(引き金)に焦点を絞ったリスク管理が必要です。早朝高血圧は心筋梗塞予防の治療標的です。
突然死の予防・狭心症の早期発見(心筋梗塞になる前に)
心臓・大動脈疾患による突然死は、突然死の70%を占めています。京都府内でも、年間に1,000人を超す人が、心臓・大動脈疾患で亡くなっていると推測されます。
突然死を予防するためには、心臓・大動脈疾患の早期発見、早期治療が重要です。
早期発見のために、適切な健康診断が重要です。
心臓・大動脈瘤検診
一般的な健康診断では、血圧と安静時の心電図、胸部レントゲン、聴診が行われますが、安静時心電図検査はエンジンで例えるならアイドリング状態でのチェックですし、胸部レントゲン写真では遠位弓部瘤が、聴診では心雑音が分かる程度です。
心臓疾患の有無を調べるには、より詳しい検査が必要です。
洛和会音羽病院での心臓・大動脈瘤検診は、以下の通りで、単純CTでの冠動脈石灰化スコアや心臓周囲脂肪体積を測定することで、狭心症・心筋梗塞の早期発見に取り組んでいます。
海外の研究では、心筋梗塞既往のない2型糖尿病患者を7年間、追跡調査したところ、20.2%の人が心筋梗塞を発症していました(Finnish Studyより)。
心臓・大動脈瘤検診は、特に糖尿病罹患期間の長い方にお勧めです。
狭心症・心筋梗塞の診断
心電図や心エコー、血液検査で異常が疑われた場合は、冠動脈CTや心筋シンチ、心臓MRIでさらに詳しく検査します。
これらの結果、狭心症や心筋梗塞が疑われれば、心臓カテーテル検査を行います。緊急の場合には、冠動脈CTなどをせずにカテーテル検査を実施することもあります。
カテーテル検査は、カテーテルと言われる細いビニールチューブを手足の動脈から心臓の血管へと送り込み、これを通じて造影剤を血管内に注入、冠動脈を撮影する検査です。
狭心症・心筋梗塞の治療
以下のような治療法があります。
- 薬物療法…血管拡張剤、べータ遮断薬、抗血小板剤、脂質異常症薬
- カテーテル治療…経皮的冠動脈形成術
- 冠動脈バイパス術
カテーテル治療
カテーテル治療は1977年にドイツのグルンツィッヒ先生によって風船治療が始められたのが最初です。
血管内にカテーテルを入れ、バルーンで血管内壁をふくらませて血液の流れを回復させる方法でした。しかしこの方法は、血管が破れたり再閉塞する課題が残りました。
その後、網目状のステントが開発され、急性期の血管の解離や閉塞は減少しましたが、亜急性期のステント血栓症の発生が課題となりました。このステント血栓症は、抗血小板剤2剤により、劇的に減りました。
さらに薬剤溶出性ステントが登場し、再狭窄のリスクは10%以下になりました。
現在、生体吸収性スキャフォールドと呼ばれる「溶けてなくなるステント」も開発が進んでいます。将来は、体内に異物が残らないカテーテル治療も可能になると期待されています。
特殊なカテーテル治療
血管の内腔が石灰化し、バルーンで拡がらない場合には、ロータブレーターという特殊な器具をカテーテルの先に付けて硬い部分を削り取る治療法があります。施設基準を満たした洛和会音羽病院のような施設のみで使用が可能な治療法です。
このほか、片側に回転する刃が、もう片側にはバルーンが内蔵されている器具で、狭窄している部分でバルーンをふくらませて刃のついている部分を粥腫(じゅくしゅ)に押しつけ、刃を回転させて削り取る治療法(DCA=方向性冠動脈粥腫切除術)もあります。
洛和会音羽病院の心臓内科のご紹介
洛和会音羽病院の心血管治療チームは、心臓内科9人、心臓血管外科1人で構成されています。心臓専門のカテーテル室をはじめ、脳神経外科などと共用のカテーテル室もあります。2016年度には、600例を超すカテーテル治療や、不整脈のアブレーション治療(66件)を行いました。心臓・大動脈瘤検診で心疾患が見つかり、入院治療を受けられた方もいます。
心臓・大動脈瘤検診
これまで述べてきましたように、狭心症や心筋梗塞の予防には適切な健康診断が有効です。
ご自分の心臓について、気になる症状がおありの方は、心臓・大動脈瘤検診をお勧めします。
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洛和会京都健診センター音羽病院
プロフィール
洛和会音羽病院
心臓内科 副部長 [ICU/CCU室長 兼務]
横井 宏和(よこい ひろかず)[冠疾患カテーテル治療部]
- 専門領域
冠動脈インターベンション、末梢血管インターベンション、急性期医療 - 専門医認定・資格など
日本内科学会認定総合内科専門医
日本循環器学会認定循環器専門医
日本心血管インターベーション治療学会専門医
医学博士
臨床研修指導医
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