- 開催日:2018年5月31日
- 講師:洛和会音羽病院 臨床心理室 副係長 臨床心理士 中島 陽大(なかしま ようた)
はじめに
現代社会に生きる私たちは日々、ストレスと無縁ではありません。勤め先での人間関係をはじめ、家族関係や友人関係、経済問題…。私たちの身の回りには、どこにでもストレスの原因がありそうです。そもそもストレスとは何か、ストレスが健康に与える影響、そしてストレスが生じた場合にどうストレスと付き合うのかを考えていきたいと思います。
ストレスとは
ストレスという言葉は、17世紀頃までは建築学の分野で使われており、建築構造物に加えられる力を意味していました。医学や心理学にストレスという言葉が使われ始めると、「ストレスとは生物─社会─心理学システムに加えられた外力」という意味で使われるようになりました。その後、ストレスが身体や精神に及ぼす影響やそのメカニズムが明らかにされてきました。
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ストレスのメカニズム
生物には、体温や脈拍、呼吸のリズムなど、身体の状態を一定に保とうという性質があります。この性質を「恒常性」と呼びます。ストレスには恒常性を乱すような働きがあることが分かってきています。ストレスがかかるとさまざまな一般症状(副腎皮質肥大やリンパ節の萎縮、十二指腸潰瘍など)が現れ、体調を崩す要因になります。人間関係や仕事上の出来事だけではなく、何気ない会話や光や音などありとあらゆるものがストレスになり得ます。過剰なストレスは問題で、病気や命の危機を招くことにもつながりますが、適度なストレスは人間の成長につながることが知られています。
ストレスの受け取り方で効果が変わる
同じストレスを受けても、それを受ける人によって健康を害する人もいれば、そうでない人もいるのはなぜでしょうか。それはストレスの受け取り方(認知の仕方)に違いがあるからです。認知の仕方によって、自分に与えるストレスの意味が変わり、精神的な健康が変化します。次に示した事例を見てみましょう。太郎君と次郎くんはどちらもテスト結果を返却されましたが認知やその後の結果が対照的です。太郎君はテスト結果を肯定的に受け止め、その結果、気分は晴れやかで楽しく前向きに過ごすことができました。一方で次郎くんは、テスト結果に憤り、自己否定的なものとして受け取りました。その結果、自己嫌悪に陥り学校に登校することが嫌になってしまいました。このようにストレスの受け取り方で、同じ状況でも全く異なる結果が生じるといえます。
メンタルヘルスとメンタル不調
世界保健機構(WHO)は「健康とは、身体的にも精神的にも、社会的にも、完全に良い状態を意味する。単に病気や虚弱体質でないというだけではない」と説明しています。つまり心身の健康はもちろん、その人らしく元気に生活することが健康だと考えられています。
このように、ストレスを考えるときに心と身体の密接なつながりを無視することはできません。日本には「病は気から」という言葉がありますが、精神的に不健康(メンタル不調)になると、その状態は身体の不調として現れます。心と身体はつながっており、心の状態にも目を向けて生活していくことが大切だと言えます。
メンタル不調と抑うつ症状
不調には疲労感や頭痛、肩こり、不眠、動悸、腹痛等の身体的な不調と、不安感、イライラ、気分の落ち込みなどの精神的な不調があります。メンタル不調の代表である、抑うつ症状には注意が必要です。興味関心の低下、集中力困難、倦怠感、食欲低下、抑うつ気分、不眠などの症状が続いた場合は専門機関へ早めに受診しましょう。
中年期・老年期のストレス
現在の日本の平均寿命は約80歳です。1950年代と比べて20歳程度伸びました。機能年齢も1990年と2000年を比較すると、同一年齢で10歳程度若くなってきています。年齢を重ねても身体の機能がある程度保たれるようになったため、70歳、80歳になっても散歩や趣味など余暇活動をしながら過ごすことができるようになりました。
しかしうれしい事ばかりではありません。現代の中年期・老年期にかかるストレスは大きく危険だからです。年齢が進むことで体力低下が起こり、若い頃のようにストレスに耐えられなくなっていきますが、生活環境は刻々と変化し、ストレスはかかり続けます。例えば中年期には夫婦離婚の危機や仕事上の問題が、中年期から老年期には家庭や親世代の介護がストレスとしてかかります。若い頃であれば気合と根性で乗り越えられたかもしれませんが、年齢による心身の変化や環境の変化も加わって、非常に大きなストレスとして体験されます。特に親世代の介護ストレスは現代の社会問題としても非常に重要で、ストレス対処方法が重要になってきます。
ストレス兆候の判定法
こうしたストレスに対処する前に、自分にかかっているストレス状態を知りましょう。次に挙げる13のストレスに関係する兆候のうち、自分に当てはまるものをチェックしてください。「はい」「そう感じる」の項目が「0~2」は正常です。「3~6」なら軽度のストレス、「7~10」は中程度のストレスが認められ、休養をすすめます。「11~13」の人は高度のストレス状態にあり、医師に相談する必要があります。
ストレス対処法(1)-複数の対処方法を組み合わせましょう-
全てのストレスに対して万能な対処方法はありません。その人それぞれの状況に合わせて対処するしかありません。ストレス対処をする際にどこに焦点を当てるかは重要です。問題そのものを解決する対処をするか、情動(気持ち)を落ち着かせるための対処をするか、大きく二種類の方法があります。それぞれを、問題焦点型、情動焦点型と言います。例えば仕事上のストレスを感じている場合、前者は仕事を片付ける、会社を休む等の対応が挙げられます。後者は辛い気持ちを聞いてもらう、気分転換をするなどが挙げられます。どちらも重要な対応策です。状況に応じて使い分けましょう。
また、ストレスに直面した時に今すぐ問題を解決するか、後回しにした方が良いか、対処方法を迷うことがあります。結論から言えば、積極的に「問題焦点型」の対処をした方がストレスの軽減には効果的です。さらに単一の対処方法だけでなく複数の方法を組み合わせた方が効果的です。
ストレス対処方法(2)-問題を柔軟に捉える-
ストレスに対する認知の仕方も大切です。「0か100か」、「○○すべき」「一度失敗したから、次も失敗するに違いない」などの極端な思考になっていませんか。極端な考えはストレス状況を一面的にしか見られなくしてしまい、有効な対処方法を見つけにくくなってしまいます。柔軟な思考でストレス状況を多面的に見て、冷静な対処を心掛けましょう。
ストレス対処方法(3)-多くの人の力を借りて対処しましょう-
ストレス対処には、なるべく多くの人の力を借りることも必要です。ストレスに柔軟に対処するためには、多くの知恵と支えが必要な場合があるからです。夫婦、家族、地域などとつながりをもって対処していきましょう。行政や医療等の社会的資源を積極的に利用することもストレス対処の幅を広げ、柔軟な対処につながります。
ストレスとうまく付き合い、健やかに生きる
健やかに生きるコツは、生きがいを持って生活することです。幸福感や自己効力感が高まることで、ストレスに遭遇した時に力強く立ち向かうことができます。例えばボランティア活動などの社会的活動は、体力の維持だけではなく地域のつながりを保つことにもなり、健やかに生活することを助けるでしょう。生きがいを持ちながら生活をすることで、ストレスを跳ね返して明るく楽しく生活しましょう。
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