- 開催日:2018年4月12日
- 講師:洛和会東寺南病院 臨床検査部 主席課長 佐藤 晴久(さとう はるひさ)
はじめに
臨床検査技師とは、医師または歯科医師の指示により、身体の構造や機能に関するさまざまな生理情報を調べる(検体検査、心電図検査、脳波検査、筋電図検査、呼吸機能検査、超音波検査など)専門家です。本日は、健康診断の結果をどう見たらいいかについてお話しします。
京都市胃がん検診(胃内視鏡検査)について
京都市では2017(平成29)年6月15日から、胃がん検診(内視鏡検査)の受け付けが開始されています。(検診を希望される方は、京都市のホームページで詳細をご確認ください)
胃がんリスク検診(ABC検診)について
胃がんの罹患(りかん)率は年々下がっています。原因として、若い人たちにピロリ菌の保持者(陽性者)が減ってきたことが挙げられます。ピロリ菌が胃の中にいない陰性者は、胃がんの発生率も低いです。また陽性者でも薬でピロリ菌を除菌した場合は、胃がんの発生が抑えられます。
胃がんリスク検診は、血液や尿からピロリ菌の有無を調べる抗体検査と、血液検査で胃の中の酸の分布を調べるペプシノゲン検査という二つの検査で判定します。検査結果がどちらも陰性なら、胃がん発生のリスクはとても低く、どちらも陽性ならリスクは非常に高い(80人に1人)と判定されます。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
心電図
心臓は電気信号が一定のリズムで心筋に流れることでトク、トク…と拍動します。心電図検査では両手足と胸に電極を当てて拍動(脈拍)の様子を記録し、心臓の電気的な活動を調べます。
一般の健康診断で記録される心電図は、15秒程度の心臓の状態です。このため、何らかの異常があっても、検査でとらえられないことも多いのです。脈が飛ぶ、脈が速すぎる、脈が遅すぎる…などの自覚症状がある方は、病院への受診をお勧めします。携帯型の「ホルター心電計」では1日24時間の心電図がとれますので、正確な診断が可能です。
脈波図検査(ABI検査)
ベッドに寝た状態で両方の足首と上腕の血圧を同時に測定し、その比率を計算します。健康体では足首の方がやや高い値を示しますが、動脈に狭窄(きょうさく)などがあると低くなり、動脈硬化の程度が分かります。
血圧の左右差も判断材料になります。たとえば両手上腕の血圧が左右で20程違っていたら、何らかの疾患が隠れているかもしれません。
血管エコー検査
超音波(エコー)を使って、動脈硬化の程度を見る検査です。
上は正常な血管、下は動脈硬化を起こしている血管で、血管内にボコボコした粥状の物質(プラーク)が映っています。このプラークが血管壁からはがれて血栓となり、心臓や脳に飛んで血管を詰まらせると、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。
血管年齢を計る
血管年齢とは、動脈壁の弾力性を計ることにより、血管の老化度を判断する指標です。さまざまな測定方法がありますが、簡便な例としては、指先に付けた測定器で脈波(末梢血管における血圧などの変化をグラフ化したもの)の形をみることで、血管の硬さを判定する方法があります。
気になる脂質の検査
脂質検査は、総コレステロール(T-Cho)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪(TG)を計ります。
コレステロールは高すぎると体に良くないのですが、低すぎるのも良くないため、過剰なダイエットなどは厳禁です。
肝臓には、コレステロールを生産するという働きもありますが、肝硬変や肝炎など、何らかの肝臓疾患を抱えている場合に、総コレステロール値が低下することがあります。特に食生活などを変えていないのに、コレステロール値が下がっているなら、何か病気が隠れている可能性を考える必要があるかもしれません。
検査結果に少し手を加えてみましょう
次の検査データをもとに、考えてみましょう。
中性脂肪は基準値を上回っていますが、コレステロール値はすべて基準値の範囲に収まっています。では、問題はないのでしょうか?
一部の報告によれば、急性心筋梗塞の患者さまの30~40%は、LDLコレステロールが100以下でした。基準値が70~139ですから、正常範囲に見えますが、動脈硬化が進んでいたのです。それを見分けるのは、コレステロール値の比を計算することです。
悪玉を善玉で割る
この計算式で検査データの計算をしてみると、138÷44=3.1となります。2.0を超えているため、動脈硬化のもととなるプラークがたまり始めていることを示しています。
動脈硬化指数を計算する
この計算式による判定は、「3.0未満なら良好、3.0以上5.0未満は要注意、5.0以上は危険」です。
検査データをこの方式で計算すると、
(215-44)÷44=3.9 となり、要注意となります。
善玉コレステロールは、運動によって増えるといわれます。また、食生活を改善して、油ものの取り過ぎを抑えたり、魚や野菜を多く摂ることが動脈硬化の改善に役立つとされています。
検査数値を基に、日頃の生活習慣を見直してみることも大切でしょう。
尿検査
尿検査は健康診断や病気の原因を探るときなど、広く一般に行われる検査です。
尿のPHを計る検査では、いわゆる酸性・アルカリ性を調べます。健康な人の尿は基本的にPH6.5程度(4.5~8.0)で、弱酸性を示します。しかし、何らかの病気である場合、常に酸性・アルカリ性のどちらかに傾いてしまうのです。
常にアルカリ性の場合、腎盂(じんう)腎炎や膀胱(ぼうこう)炎、尿道炎などの感染症が原因として考えられます。尿が酸性の場合は腎結石や尿管結石ができやすくなります。
メタボリックドミノ
糖尿病の怖さを図で示しています。
最上部の生活習慣から、最下部の透析や失明に至るまでに、適切に対処しないと大変なことを示しています。ドミノを倒さないようにすることが大切です。
糖尿病を早く見つけましょう
血糖値は食事時間との関係などで常に変動します。糖尿病の判定には、早朝空腹時血糖の値をみることが有効です。前夜9時ごろから絶食し、翌朝に、血糖値を計ります。
早朝空腹時血糖の値が、126以上は糖尿病域、110~125は境界域、100~110は正常高値、70~99は正常域です。
基準値と基準範囲
基準値とは、厳密に性別、年齢、生活習慣、検体採取条件を同じにする健康な基準個体から得られた計測値です。
基準範囲とは、基準個体の計測値の中央値を含む95%が含まれる範囲です。このため健常人でも、上限を超える人は2.5%、下限以下の人は2.5%、基準範囲から外れます。
毎年の検査結果は保管しましょう
各回の検査値を見ることも重要ですが、前回の検査値との変動に注意してください。正常値の範囲内でも、今回と前回の値が大きく変動していたら注意が必要です。
主に肝臓の働きをみる検査は
AST(GOT)、ALT(GPT)、ChE(コリンエステラーゼ)、γ‐GTP、ALPなどがあります。
AST(GOT)、ALT(GPT)は、肝臓などの細胞が障害を受けると血液中に流れ出します。両者とも肝臓に含まれていますが、ASTは心臓に最も多く、また肝臓以外にも骨格筋などにも含まれているため、ASTとALTの数値を調べることで、障害を受けた部位が心臓なのか肝臓なのか、また筋肉なのか判断する手掛かりとなります。ALTの大部分は肝細胞に含まれるので、ALTの数値が高い場合は、肝臓の病気が疑われることになります。
γ‐GTPは肝臓の解毒作用に関係しています。アルコールに敏感に反応し、アルコール性肝障害や胆汁の通り道である肝道に障害があると数値が上昇します。個人差がありますが、数値が100を超えると脂肪肝が進み、200を超えると胆石や胆道がんなどによって胆道が詰まっている心配もあるので、さらに詳細な検査を受ける必要があります。
痛風
尿酸(UA)は、新陳代謝によってできる細胞の燃えかすともいえる老廃物です。細胞の核の成分であるプリン体が酵素で分解されてつくられます。尿酸が血液中に増えすぎた状態を高尿酸血症といい、血液中に溶けきれなくなった尿酸はガラス片のような針状の結晶をつくります。これが関節に溜まって炎症を起こしたのが痛風です。
主に腎臓の働きを見る検査は?
よく使う検査項目は、BUN、CRE(クレアチニン)です。
腎臓のろ過する働きが悪くなると上昇します。30%程度の障害により上昇していきます。
喫煙
上昇するものは:CRP、CEA、白血球、中性脂肪(TG)
低下するものは:HDL、コレステロール
放置しないで
私たちが健康診断で知ることができる情報は、ごく限られたことだけです。
しかし、そこに少しでも異常値や大きな変化が見られたときには、精密検査が必要になります。
健康診断は、病気を見つけるのではなく、体の変化に気付くためです。早期に発見して早期に治療すれば治る病気はたくさんあります。
そのために、健康診断の結果を見て、異常値や大きな変化が見つかった方は、必ず病院で検査を受けるようにしましょう。
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