- 開催日:2018年6月8日
- 講師:丸太町リハビリテーションクリニック リハビリテーション部 健康運動指導士 福田公雄(ふくだ きみお)
はじめに
わたしは普段、京都市内の施設で運動指導をしています。皆さん、日頃の運動は足りていますか。運動不足を自覚している方も多いと思います。皆さんのなかには、年金受給が始まり、年金を受け取っている人が多いと思いますが、本日の話は年金ならぬ「年筋」です。加齢に伴い、体の能力が低下し、健康障害を防ぐための「年筋生活」を一緒に始めてみましょう。
こんな座り方をしていませんか
皆さんは今、いすに腰を掛けていますね。背筋はまっすぐですか。背中が背もたれに寄りかかっていませんか。足の裏はちゃんと地面についていますか。1枚目の写真のようにぐったりとした座り方では、いけません。2枚目の写真のように、背もたれから少し離れて座り、おなかや背中を刺激して座る方がいいのです。こんなちょっとしたことで運動になります。ほんの少しの時間を利用して、筋力アップにつなげるようにしましょう。
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「ロコモ」ってなんだ
最近、一般の薬の名前にも使われるロコモティブシンドローム(通称ロコモ)という言葉をご存じでしょうか。体を動かすために関わる組織や器官(骨や筋肉、関節、じん帯、腱、神経)が、体の障害のために、移動機能の低下を来している状態をいいます。
サルコペニア
ギリシャ語の「筋肉」を表す「サルコ」と、喪失を意味する「ぺニア」の二つの言葉を組み合わせた言葉です。筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態をいいます。骨はしっかりしているのに、体の運動機能が落ちている場合を指しています。
「サルコペニア」かをチェック
体重と身長を使って、体格指数(BMI)を計算してみましょう。体重はkgで、身長はmで計算します。たとえば、身長170cm、体重60kgの人の場合、60kg÷1.7m÷1.7mとなり、体格指数は約20.8となります。目安では22が標準値です。この数字が18.5を下回った場合は、サルコペニアが疑われます。加えて
- 横断歩道を青信号で渡り切れないことがある
- ペットボトルやビンのふたが開けにくい
に当てはまる人は要注意です。横断歩道は時速2.9mで歩けば、渡り切れる設計であり、ペットボトルのふたは、握力14kgの人を標準にしているそうです。いずれも目安ですが、参考にしてください。
体に忍び寄る虚弱
加齢によって体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態を虚弱(フレイル)と呼びます。ロコモティブシンドロームやサルコぺニアは具体的なフレイルです。加えて、骨がもろく、弱くなる骨粗髭(そしょう)症や変形性関節症もこれに含まれます。その他のフレイルでは、外出が減少し、家に引きこもりがちになる社会的フレイル、抑うつや軽度の認知障害をいう精神的フレイルがあります。体に忍び寄る危険性を図にすると、次のようになります。
年金と「年筋」の違い
使わないと増えていくのが年金ですが、「年筋」は使えば使うほど維持でき、増えていきます。年金には年齢制限がありますが、「年筋」を受け取るには年齢制限はありません。国の影響を受ける年金と違って、「年筋」は国の影響を受けません。年金は支給を受けて受け取りますが、「年筋」は自給するものです。「受け身」ではない「年筋」の大切さは、このあたりにもあるのです。
「年筋」手帳をつけよう
日々の自分の暮らしを振り返ることは大切です。運動でも同じで、どんな内容の運動をし、何分くらい運動したのかを記録していおくことが大切です。運動後の体調や体の変化もメモしておくことがポイントです。自分の体を振り返り、見つめ直すことの一環として、「年筋手帳」を始められることをお勧めします。
運動をしないと…
先日、日本人の宇宙飛行士が国際宇宙ステーションでの滞在を終えて地球に戻ってきました。昔なら、宇宙の無重力状態の中で長時間過ごせば、筋力や骨が著しく衰え、任務終了後に日常生活に戻るのが大変でした。最近は宇宙船内でもゴムなどを使って筋力トレーニングするのが一般的です。地球に戻った日本人も、地上ですぐに花束を受け取るなど、元気そうでした。同じように、以前は心筋梗塞で入院した場合は、とにかく休養が大切だとして、1カ月以上もベッドで休むことを求められました。今は、可能な限り、すぐにリハビリテーション訓練に取り組みます。リハビリテーションの開始は1分でも早い方がいいとの考え方です。入院で衰えた筋力を、すぐに取り戻そうとしているのです。
骨量と筋力の変化
年齢の変化は骨や筋力にも影響を及ぼします。女性の骨量減少は男性に比べると早く現れます。女性で40歳すぎから、男性でも60歳すぎには骨量が減ってきます。一方、筋力の減少は30歳ごろから始まり上肢、下肢とも低下します。運動器の性質や機能の衰えは、高齢になる以前から始まっているのです。
ロコモチェックを忘れずに
健康な状態から要支援・要介護の段階に至るまで、運動能力は、ひそかに衰えていくことを忘れてはなりません。実は、少しずつ進行する移動能力の低下に気付かないふりをしているのではありませんか。片脚立ちで靴下がはけない、家の中でつまずいたり、すべってしまう、階段を上がるときに手すりが必要になるなど、日ごろの生活の中で、手軽にチェックできます。また、牛乳のパック2本分、約2kgほどの買い物をしても家に持ち帰るのが難しいなど、ここに挙げた7つのチェック項目で点検してみてください。
ロコモ疾患の性差
ロコモ疾患には男女の性差があります。骨粗髭症では、男性に比べて女性の有病率が圧倒的に高い状態にあります。「閉経」などがある女性の骨のもろさには注意が必要です。一方、男女とも40歳以降に有病率が高くなるロコモ疾患では、男性が変形腰椎症、女性では変形性膝関節症が多いのが特徴です。
まだまだ、これから
今からでも遅くないのです。いすに腰を掛けて、腕を伸ばし、足を上げるだけでも運動です。タオルを使って肩を鍛えることも可能です。寝たままでも、タオルを両手で持って、バンザイの姿勢で手の甲を上に伸ばせば、いいのです。厚生労働省は、生活習慣病対策として1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリと説いています。インド人の男性が100歳でフルマラソンの世界記録を出したのには驚かされますが、「今からでも遅くない」の好例として記憶しておきたいものです。