- 開催日:2018年3月16日
- 講師:洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医師 長野 広之(ながの ひろゆき)
はじめに
タバコは体に悪い、と聞いていても、まだ知らないことも多くあると思います。本日は、喫煙や禁煙にまつわるさまざまなことをお話しし、禁煙への道筋をご説明します。
病気にならないために
私たちが病気になるのには、原因があります。川の流れで言えば、上流には病気を引き起こす原因物質を排出する産業施設や、体の中の“病気の工場”ともいえるタバコや甘い物、アルコールなどがあります。それらが年月を経て体をむしばんだ結果、下流部分で病気が発症して病院に来られるわけです。病気を防ぐには、健康教育によって上流部分で対応することが大切です。
テストです
以下に、タバコにまつわるテストをしますので、答えを見る前に考えてください。
Q1 日本人の喫煙率は、概ね次のうちのどれでしょう。
- 5%
- 10%
- 20%
- 40%
Q2 タバコで肺がんになるリスクは、吸わない人の何倍になるでしょう。
- 2倍
- 4倍
- 10倍
- 20倍
答えです
Q1の喫煙率の答えは、3の概ね20%です。JTによる2017年調査では、男性の28.2%、女性の9.0%、全体で18.2%でした。
喫煙率は年々、下がっており、過去50年間で3分の1となっています。それでも先進国の中ではまだ、高い方です。
Q2の答えは、4の20倍です。個人差がありますが、15~30倍と考えられています。
タバコの害
タバコの3大有害物質は、ニコチン、一酸化炭素、タールです。このほかに有害物質が200種類以上、含まれています。有害物質により、悪性腫瘍や血管の異常(心筋梗塞や脳梗塞)、肺の異常(肺気腫など)が引き起こされます。毎日20本吸う喫煙者が心筋梗塞を引き起こすリスクは、非喫煙者と比べて男性で3.64倍、女性は2.9倍です。40年間、毎日タバコ1箱を吸い続けると、肺気腫の可能性が高まります。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
タバコは肌に悪い
喫煙は血管を縮める働きがあり、肌や髪のつや、歯に悪影響を及ぼします。
タバコは周囲にも悪い
フィルターを通って出てくる主流煙より、副流煙のほうが数倍も体には害があります。
戸外で吸えば影響がないと思われるかもしれませんが、衣服についた煙の影響も無視できません。
受動喫煙による年間の死亡者は約15,000人に達すると推計されています。
高齢で禁煙しても寿命は伸びる
禁煙は、早く取り組んだ方が寿命が伸びますが、年をとってからの禁煙でも効果があります。
生涯喫煙を続けた人と非喫煙者では、平均寿命で10年近い差があるとの統計があります。
タバコは止められない?
2010年の統計では、喫煙者の23%がこの1年間で禁煙にチャレンジしたものの、そのうちの86.5%が半年後には禁煙に失敗しています。
タバコはなぜ、やめられないのでしょうか。それは、ニコチンには依存性があるからです。依存症の場合は、健康保険で禁煙外来を受けることができます。
禁煙外来での治療
ニコチンガムやニコチネル(ニコチンパッチ)、チャンピックス(バレニクリン)服用などの方法があります。
このうちチャンピックスは効果が高く、2009年調査では5回の通院を終了した患者さま(1,231人)のうち、1年後も禁煙していた人が49.1%でした。
禁煙外来はタバコ代より安い
8~12週間、毎日1箱(430円)のタバコを吸い続ける場合と、禁煙治療を受ける場合の自己負担額を比べると、タバコ代が24,000円~36,000円なのに比べ、治療費は3割負担の人でも13,000円~20,000円です。
また、禁煙でタバコ代が節約できれば、積もり積もって大きな額になります。
禁煙で体重は何kg増える?
禁煙すると太る、とよく聞きますが、実際はどうでしょうか。
統計によれば、平均すると1.5kg増えています。
非燃焼・加熱式タバコって?
近年、“煙の出ないタバコ“などが販売されています。これらは無害なのでしょうか。
実は非燃焼・加熱式タバコにも“見えない煙”が出ているのです。
発売後の年数があまり経っていないため、害がないかどうかは、まだよく分かっていません。
人の行動が変わるには?
タバコを止める気が一切ない人に喫煙の害を説いても、関心を示してくれません。それが、何らかのきっかけで関心を持ってもらえれば、禁煙への道が開けます。準備期から行動期、維持期と推移しますが、そこから確立期に進んで禁煙に成功するか、再発期に逆戻りしてしまうかは、さまざまでしょう。禁煙に成功することは簡単とはいえませんが、医師はその人がどのステージにあるかを考えながら治療にあたっています。
おわりに
以上、述べてきましたように、タバコは家族や周囲の人にも悪影響を及ぼします。
禁煙できないのは、意志が弱いからではなく、依存症のためです。
治療を受け、薬を使って上手に禁煙を成功させましょう。
プロフィール
洛和会丸太町病院 救急・総合診療科
医師
長野 広之(ながの ひろゆき)
- 専門領域
総合内科、膠原病、感染症
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