- 開催日:2017年2月8日
- 講師:洛和会音羽病院 心臓内科 医長 医師 加藤 拓(かとう たく)
はじめに
私が所属する心臓内科で診る病気には、心不全や心筋梗塞、狭心症、不整脈、高血圧などがあります。このうち心筋梗塞や狭心症は、心臓そのものの病気というより、心臓を取り巻く血管の病気です。心臓以外の全身の血管病のことを、末梢動脈疾患(PAD)と呼びます。本日は、PADの中でも患者さまが多い、足の血管が詰まる病気(閉塞性動脈硬化症・ASO)を中心にお話しします。
三大血管病
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)と、脳血管疾患(脳卒中)、末梢動脈疾患のことを三大血管病といいます。いずれの疾患も、動脈硬化を背景に起こります。動脈の血管の壁が厚くなったり、血管内部にプラークというゴミのようなものが溜まり、弾力がなくなった状態が動脈硬化で、動脈硬化になると血の流れが悪くなります。なぜ動脈硬化が起こるかには、年齢、性別、遺伝など変えようがない要因もありますが、糖尿病や高血圧、コレステロール、喫煙など改善が可能なものもあります。
糖尿病は年々患者数が増えています。国立循環器病センターの調査では、狭心症で治療を受けた患者さまの52%は糖尿病で、境界型の人も加えると4人に3人までが、血糖値に異常があることが判明しています。高血圧や悪玉コレステロールは、悪化すると脳卒中や心筋梗塞になる恐れが高まります。
このように動脈硬化は、いろいろな要因が複合して全身に生じ、進行します。特に複数の要因の複合が危険です。
足の血管病のお話
本日の主題である末梢動脈疾患(PAD)は、全身に生じますが、PADの患者さまの大部分が、足の血管が詰まる閉塞性動脈硬化症(ASO)です。ASOの症状は、軽症(足が冷たい、しびれる)から、潰瘍(かいよう)・壊疽(えそ)がおきる重症までさまざまです。
ASOの検査
ASOの診断には、以下のような検査法があります。
- ABI(上腕足首血圧比):手首と足首の血圧を同時に計ります。手足の血圧差が大きい場合は、ASOの可能性を疑います。
- エコー:超音波で、足の血流の状態を見ます。これらの検査でさらに疑いが深まれば…。
- CT、MRI:血流の状態が画像で診断できます。さらに必要なら…。
カテーテル:カテーテルを血管内に挿入し、動画で血流を撮影します。ASO手術が必要となった方は、必ずカテーテル検査を行います。足がしびれたり、冷えたり、むくむ、痛いといった症状を覚える方は珍しくありません。ASOかと心配される方も多いと思いますが、簡便な検査である程度まではわかりますので、気になる方はお気軽にご相談ください。
本当に怖い足の血管病(重症下肢虚血)のお話
下肢虚血には、I度(しびれ、冷感)、II度(間欠性跛行=歩くと足が痛くなる。しばらく休むとなおる)、III度(安静時疼痛)、IV度(潰瘍・壊疽)の4段階があります。このうち、III度とIV度が重症下肢虚血に分類されます。重症下肢虚血は、足の血管が詰まることで末端までに十分な血が流れないためにおこります。血流不足のために、安静時疼痛や壊疽などがおこるだけでなく、できてしまったキズがいつまでも治らなかったり悪化する結果を招きます。足を維持するのに必要な血流量よりも、キズを治すためにはより多くの血流量が必要なためです。
スライドの説明:かかとが床ずれして潰瘍ができた例。放置すると潰瘍部分が広がってしまう(右)。画像診断の結果、ひざの血管が詰まっていることが分かり、カテーテル治療で血流を回復させた。徐々にキズが閉じていき、治るまで4カ月かかった。
洛和会ヘルスケアシステムは、「創傷ケアセンター」で毎週1回、カンファレンス(ケア会議)を持ち、皮膚科、形成外科、感染症科、心臓内科など、各病院の専門家が協力して重症下肢虚血の患者さまに最適な治療を行うよう、努めています。
すでにASOと言われている患者さまへ
ASOと診断されても、症状が悪化するとは限りません。むしろ症状が変わらない人の方が多いのです。無症状または間欠性跛(は)行(II度)のASO患者さまの場合、5年後に症状が変わらなかった人が70~80%、悪化した人が10~20%、重症下肢虚血に至った人が5~10%という調査報告があります。重症化する人は100人のうち1人か2人ですので、むやみに怖がる必要はありませんが、それを理解したうえで、足の状態を見逃さないことが大事です。
ASOの治療
治療には以下のようなものがあります。
- おくすり:症状を改善させる内服薬や、動脈硬化の進行を予防する内服薬を調整します。
- リハビリ:歩くことで血流を改善します。
- カテーテル手術:カテーテルを血管内に挿入し、詰まっている血管を広げる手術で血流を回復します。
- バイパス手術:外科手術で、バイパス血管をつないで血流を回復します。
- キズの処置、切断術:以上のような処置で治らない重症下肢虚血の場合に行いますが、切断する場合できるだけ少なくする工夫をしています。
スライド説明:治療技術の進歩で、かつては無理だった方でもカテーテルで治療できる症例が増えてきました。
まとめ
- 血管病と動脈硬化は密接な関係があります。動脈硬化の危険要因はいろいろですが、改善できる要因もあります。血管病の合併は要注意です。
- 足の血管病(ASO)は、しびれから壊疽まで、幅広い症状があります。さまざまな検査や治療により、最適な対処を提案します。
- ご自分の足を見る習慣をぜひ、つけてください。
- 歩くことは、ASO予防のためにも大事です。動かなければ、血管も、筋肉もやせてしまいます。ぜひ歩く習慣をつけてください。
質疑応答から
Q 間欠性跛行は、腰が悪くてもなると聞きましたが。
A 確かに、腰からくる場合と血管が悪い場合があり、症状は似ています。ASOの場合は、検査である程度分かりますので、整形外科に通っているが一向に治らないような場合は、一度血流の検査をお勧めします。
Q 外出すると手がしびれるのですがASOですか。
A 手は血管病の可能性は低いと思われますが、しびれには首や脳などが関係している場合もあるので、一度、神経内科や整形外科を受診されるのもいいかと思います。
Q 足に静脈瘤がありますが、心臓内科を受診したらいいのですか。
A 静脈瘤の治療は、洛和会音羽病院の「脈管外科」が担当しています。
プロフィール
洛和会音羽病院 心臓内科
医長
加藤 拓(かとう たく)
- 専門領域
末梢血管インターベンション、冠動脈インターベンション、急性期医療 - 専門医認定・資格など
日本内科学会認定総合内科専門医
日本循環器学会認定循環器専門医
日本高血圧学会専門医
日本心血管インターベンション治療学会認定医
日本心臓リハビリテーション学会心臓リハビリテーション指導士
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