- 開催日:2019年2月7日
- 講師:洛和会丸太町病院 救急・総合診療科
医師 西村 康裕(にしむら やすひろ)
はじめに
私は昭和64年1月生まれの30歳です。昭和が終わる64年は1月の7日で終わってしまったため、昭和64年生まれは非常に少数派なのです。
これまでの経験を振り返れば、医師になってまだ6年目の駆け出しです。現在は洛和会丸太町病院の救急・総合診療科で多くの初診患者さんの診療に当たっています。病院を訪れる患者さんの訴えはさまざまです。体がだるい、熱が下がらない、風邪が長引いているなど、初診で診る患者さんの症状は一様ではありません。
私の担当は内科全般です。神経のほか、呼吸器、内分泌、消化器、血液、腎臓、循環器など守備範囲は広いです。
本日は、幅広い診療項目がある中で、貧血にポイントを絞って皆さんの参考になるお話をしたいと思います。
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こんなとき、何科にかかりますか?
ここに挙げるのは、50歳のある女性の話です。元気がなく、食欲不振が続いています。動悸もあり、更年期と思い、近所の病院に行くと、採血の結果、貧血と言われました。歩こうとしたら意識を失いそうになりました。関節リウマチも心配しています。彼女は総合病院に行こうかと思いますが、さて何科を訪れたらいいのでしょうか。
動悸やふらつきなら心臓内科、更年期なら婦人科、息切れなら呼吸器内科、貧血なら血液関係、リウマチなら膠原病か整形でしょうか。貧血は全身の症状として出やすいのです。まずは症状が貧血から来るものかどうか、見極めることが重要です。
血液検査は、ここに注目して
貧血は血液検査の結果ではっきりと分かります。血色素(ヘモグロビン)の量が、1デシリットル当たり男性で13.0グラム以下、女性で11.4グラム以下の場合です。一方、ヘマトクリット値は男性で38%、女性で34%以下です。これらの数値を下回れば、貧血を疑うべきでしょう。
血液の作られ方は
血液は、「血液の工場」と言われる骨髄で作られます。材料は、鉄とビタミンB12、葉酸です。末梢血管をめぐって人体の各臓器に運ばれます。赤血球に含まれるヘモグロビンが酸素と結び付いて運搬します。貧血状態を簡単に言うと、酸素が不足する酸欠状態と言えるのです。
貧血の症状とは何か
貧血になった場合の症状とは、どんなものでしょうか。全身性の症状としては、まず倦怠感が挙げられ、約8割の方に現れます。次に顔面蒼白と呼吸の苦しさです。顔面蒼白は、軽度の貧血の場合は見られないことが多い症状です。あとはめまい感、食欲不振、体重の減少が見られます。
失神したり、歩くと酷くふらつく等の症状は、慢性的な貧血で出ることは少なく、急な出血等、緊急性が高い場合があります。
貧血の原因は
貧血の原因は、第一に血液が作られないことです。中でも一番多いのは、血液の主な材料となる鉄分の不足です。それに、血を作る骨髄の異常が考えられます。ほかにも、血液が体のどこかで壊れているか、出血していることが原因として挙げられます。
出血が胃や腸、大腸で起きているときは、じわじわと起こることもあります。こうした消化管の出血は自分の体の中で起きていても、なかなか気付かないものです。
胃と大腸の定期検査は、50歳以上の方では一般的です。胃カメラは2~3年に1回、胃の透視(バリウム)は年に1回は行うことが勧められています。大腸がんによる出血の有無を調べる便潜血の定期検査は1年に1回、大腸カメラも数年に1回の実施が推奨されています。
便潜血で陽性なら大腸内視鏡で
便潜血検査の結果が陽性の場合、大腸の中を内視鏡で詳しく調べます。
検査前日の夜に下剤を服用し、当日朝に来院して2リットルの腸管洗浄液を飲みます。そして、内視鏡を体内に送り込んで大腸内にがんが発生していないか検査します。
早期の大腸がんの発見は時期が早いほど回復も早くなります。5年後生存率も早期発見の場合は100%に近く、症状が進んだステージⅢの病状でも85%近くに上ります。
胃がんの場合も同じような傾向です。症状のごく初期に内視鏡検査でがんが見つかれば完治する可能性が高まります。
ピロリ菌を除菌できれば胃がんが減る
ピロリ菌をご存じでしょうか。胃の中にすみつく細菌の一種で、ときには胃潰瘍や胃がんのリスクになることが知られています。胃の内視鏡検査でピロリ菌感染の有無が確かめられます。
胃以外にもピロリ菌と関係する病気があります。8~9割は薬剤で取り除くことが可能です。1週間薬を飲むことで、ピロリ菌はほぼ消滅します。この除菌療法で胃がんの発生が46%抑えられることも確認されています。
貧血と間違えられるほかの病気も
症状から貧血と間違われるほかの病気があります。今度は60歳男性のお話をしましょう。
以前から立ちくらみのほか、急に目の前が真っ暗になることが時々あったこの男性は、いすに座ったまま数秒間意識を失い、救急車で病院に搬送されました。この男性の場合、脈拍が3秒に1度しかない不整脈でした。ペースメーカを埋め込む措置の結果、症状は収まりました。ほかの例では、甲状腺機能が低下したときにも、疲労感や無気力症状、皮膚乾燥、月経異常などの症状が出ることがあります。また、抗認知症薬や抗生物質の一部、睡眠薬、降圧薬、鎮痛薬の一部にも体のふらつきを招くものがあります。もしこれらの症状が出ている場合は、一度かかりつけの先生と相談してみると良いでしょう。
本日のまとめ
もし自分が貧血かな?と思ったら、まず血液検査で本当に貧血かどうかを確認してください。貧血は原因の究明が大事です。胃がんや大腸がんの出血なら、すぐに専門医の診察を受けてください。貧血に似た病気もいろいろありますので、すべてを年齢のせいにする前に一度受診してください。定期的な健康診断もぜひお勧めしたいと思います。
プロフィール
洛和会丸太町病院 救急・総合診療科
西村 康裕(にしむら やすひろ)
- 専門領域
内科一般 - 専門医認定・資格など
日本内科学会認定内科医
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