はじめに
洛和会丸太町病院の消化器センター外科 部長として、胃がんや大腸がん、虫垂炎などの手術を主に行っています。中でも最近は大腸がんが増えています。大腸がんの治療で難しいのは、がんが進行してから来られる方が多いことです。大腸がんは早期に見つけてほしい。私は外科専門ですが、内科の医師が扱う初期の段階で処置してもらうのがいいです。そういう意味で、今日は大腸がんをどう予防するかという話をさせていただきます。
大腸の役割
大腸は食べ物の最後の通り道で、右の下腹部から始まって肛門につながり、長さは個人差がありますが、だいたい1.5m~2mです。栄養素の消化吸収作用はほとんどなく、水分を吸収する仕事をしています。大腸の右半分や左半分を切り取っても、その後の生活に大きな支障はありません。
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女性では最も死亡の多いがん
今、がんは死因のトップです。がんの死亡数の多い部位を見ると、男性では肺、胃に次いで3位、女性では大腸がトップです。男女合わせると、肺が1位、2位が大腸、3位が胃となっています。一方、がんにかかった人が多い部位を見ると、大腸は男性では3位、女性では2位で、男女合計ではトップです。最もかかる人が多いがんということです。
一方、生涯でがんにかかる確率を部位別に見ると、男性で9%、11人に1人は大腸がんにかかる可能性があります。一方、女性では9%の乳がんが最も多く、大腸は2番目の8%です。
大腸がんとは
大腸がんは、大腸(結腸・直腸・肛門)に発生するがんで、腺腫という良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。
大腸の粘膜に発生した大腸がんは次第に大腸の壁に深く侵入し、やがて壁の外まで広がって腹腔内に散らばったり、あるいは壁の中のリンパ液や血液の流れに乗って、リンパ節や肝臓、肺など別の臓器に転移したりします。
大腸がんの発生部位別頻度
大腸がんは部位別に見ると、結腸がんが60.4%、直腸がんが39.6%を占めています。結腸がんの中では直腸につながるS字結腸の部分が27.7%と最も多くなっています。
リンパ節転移・転移
大腸の壁の中にあるリンパ管にがん細胞が入ると全身に回り、転移する可能性が高くなります。
がん細胞が発生した場所から、それ以外の場所に「飛び火」して大きくなることを転移といいます。リンパの流れに乗ってリンパ節に転移する「リンパ行性転移」、血液の流れに乗って肝臓や肺、骨、脳に転移する「血行性転移」、大腸の壁を破っておなかの中に種をまいたように散らばる「腹膜播種」という転移があります。
大腸がん検診
男女とも40歳以上は年に1回大腸がん検診を受診しましょう。ほとんどの市町村は検診費用の多くを公費で負担しています。
検診の内容は、問診と便潜血検査です。便潜血検査では、大腸がんやポリープによる出血が便に混じっていないか調べます。通常、便潜血は微量で目には見えません。がんからの出血は間欠的であるため、2日分を採取します。
大腸がん検診の統計を見ると
2017年に大腸がん検診を受けた人は253万人で、うち要精密検査になった人は15.3万人、10万人が精密検査を受け、うち4,300人にがんが見つかっています。検査を受けた人を1万人とすると、607人が要精密検査となり、17人にがんが見つかった計算になります。もし要精密検査になった全員が受診していたら、25人に見つかった比率です。大腸がん検診でがんが見つかるのはそれくらいの比率です。
大腸がんの症状
早期の段階では自覚症状はほとんどなく、進行すると次のような症状が出ます。
- 血便
- 下血(がんからの出血により赤または赤黒い便が出る。便の表面に血液が付着する)
- 下痢と便秘を繰り返す。便が細くなり、便が残る感じ
- おなかが張る。腹痛
- 貧血
- 体重減少
さらに進行すると、腸閉塞になって便が出なくなり、腰痛や嘔吐などの症状が出ます。また転移し、肺や肝臓でがんが発見されることもあります。
大腸がんの検査
大腸内視鏡検査
肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体を詳しく調べます。ポリープなどの病変が発見された場合は組織を採取し(生検)、病理診断を行うことが可能です。画像強調観察や拡大観察を用いて、病変部の表面構造のより精密な検査を行うこともあります。
注腸造影検査
バリウムと空気を肛門から注入し、エックス線写真を撮ります。この検査でがんの正確な位置や大きさ、形などが分かります。
CT検査、MRI検査
CT検査はエックス線、MRI検査は磁気を使用して体の内部を描き出す検査です。治療前に周辺臓器への転移がないかなどを調べられます。
大腸がんの深達度
大腸がんはその深さによって、図のようにTis(がんが粘膜内にとどまる)、T1(がんが粘膜下層にとどまる)など6段階に分けられます。
大腸がんの病期(ステージ)
がんの進行の程度を「病期(ステージ)」として分類します。病期は、深達度、リンパ節転移、遠隔転移の有無によって決まり、0期~Ⅳ期まで次のような5段階に分類されます。
- 0期=がんが粘膜内にとどまる
- Ⅰ期=がんが固有筋層にとどまる
- Ⅱ期=がんが固有筋層の外まで浸潤している
- Ⅲ期=リンパ節転移がある
- Ⅳ期=血行性転移(肝転移、肺転移)または腹膜播腫がある
大腸がんの5年生存率
病期ごとに5年生存率が違ってきます。
2000年~2004年のデータでは、次の表のような生存率です。現在はもっと良くなっていますが、ステージが上がるにつれて生存率も下がります。早期発見の重要さが分かります。
内視鏡治療
内視鏡治療は、がんの治療が完結する早期がんに行う治療です。図示したような次の3つの手法があります。
- ポリペクトミー
- 内視鏡的粘膜切除術
- 内視鏡的粘膜下層剥離術
内視鏡的粘膜切除術は、病変部の粘膜下層に生理食塩水を注射して大きくし、浮き上がった部分の根元にスネアと呼ばれる輪状のワイヤーを掛けて絞め、高周波電流を用いて切除します。
大腸がんの外科的切除
図のように、内視鏡で一括摘除できない場合や高度に浸潤している場合は外科的切除の手術を行います。
また拡大内視鏡でポリープの形状を見てPit pattern分類を用いると、組織検査をしなくても腫瘍の程度を調べることができ、内視鏡治療を行うか、外科手術を行うかの判断ができます。Pit pattern分類では、図のようにポリープの形状を7種類に分けています。
外科的切除の方法
外科的切除では、結腸がんの場合は腫瘍から10cm離れた部位で腸管を切除し、腸管をつなぎ合わせます。直腸がんの場合は、腫瘍の部位に応じて、肛門括約筋を残すかどうかなどの手術方法を選択します。肛門を残せない場合は人工肛門を付けます。また、いずれも手術の際には転移を防ぐため、図のようにリンパ節を一緒に切除します。
腹腔鏡下手術
最近はこの手術が主流です。
腹部に4~5カ所の小さな穴を開け、そこから手術器具(柑子)や腹腔鏡カメラを入れて手術します。がんができた患部の大腸や周囲のリンパ節を切除し、それを切り口から取り出します。手術の傷が小さくて済み、術後の痛みが少ないほか、拡大鏡を使うため従来の開腹手術では見えなかった部分まで見える利点があります。
最後に
- 大腸がん検診は大事です。男女とも40歳以上の人は年に一度、大腸がん検診を受けましょう。
- 症状があれば放置せず、消化器内科で内視鏡検査を受けましょう。
- がんの医療は進歩しており、大腸がんのステージⅣと診断されても、治療を諦めるのはまだ早いです。
質疑応答から
Q 普段から便秘がひどく、よく便に色の鮮やかな鮮血が混じるのですが、鮮血だと大腸がんの恐れはないのですか?
A 鮮血だから大丈夫だとは思わないでください。腸の上流部分にがんが見つかる人もいます。心配な場合は、検査を受けてください。早期がんが見つかることもあります。大腸がんを早期で見つけるには、定期的に内視鏡検査を受けることです。
Q 腹腔鏡下手術の方が良いのでしょうか?
A 切った腸を取り出す穴は開けますが、腹腔鏡下手術は痛みが少なく、大腸を切り取った後、腸がねじれてくっつく恐れが少ないという利点もあります。
プロフィール
洛和会丸太町病院 消化器センター外科
部長
内山 清(うちやま きよし)
- 専門領域
消化器外科、腫瘍外科 - 専門医認定・資格など
日本外科学会外科専門医/指導医
日本消化器外科学会消化器外科専門医/指導医
がん治療認定医
消化器がん外科治療認定医
緩和ケア研修修了
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