はじめに
今回のテーマの「隠れ脳梗塞」は正しい医学用語ではありませんが、医師も用いることがあり、その意味するところはだいたい一致していると思います。
「隠れ」「脳」「梗塞」という3つの言葉に分解して考えてみましょう。最初の「隠れ」は無症候性、すなわち症状がないという意味です。
「梗塞」は血管が詰まり、その先の細胞が死滅することを指します。心臓で起きれば心筋梗塞で、脳で起きれば脳梗塞です。
つまり隠れ脳梗塞とは、脳の血管が詰まりその先の脳細胞が死に梗塞が起きたのに、症状のない状態のことです。
脳卒中と脳梗塞
よく「脳卒中」という言葉も使います。脳梗塞とどう違うのでしょうか。その関係を示すと、図のようになります。
脳卒中には、「血管が詰まる」「血管が破れる」の2つのケースがあります。血管が詰まったときが「脳梗塞」で、破れたときは「脳出血」か「くも膜下出血」です。
「脳出血」は脳の中の血管からの出血で、「くも膜下出血」は頭の表面を走っている血管が破れてくも膜と脳の間に出血します。8割くらいは動脈瘤の破裂が原因で、3分の1くらいの方が病院に運ばれてくる前に亡くなる重篤な病気です。
今のようにCTなどがない時代、原因が区別されず、すべて脳卒中と呼ばれていました。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
脳神経内科とは
脳神経内科は最近まで神経内科と呼ばれていました。似た診療科に「神経科」があります。
脳神経内科は、脳の構造に問題がある症状を対象にし、脳梗塞、認知症、パーキンソン病、てんかんなどを扱います。一方、神経科とは精神科とイコールで、統合失調症やうつ病、不眠症といった分野を扱います。また、神経科に似た心療内科という診療科もあります。この診療科はストレスなどで身体症状が出るものを扱い、事実上は精神科に近い診療科です。
隠れ脳梗塞があると、なぜ悪い?
隠れ脳梗塞は症状がないのですが、一度できると消えません。そして再発します。だからまずいのです。
グラフを見てください。一度脳梗塞を生じた人298人を10年間追跡調査したところ、10年間で再発した人の割合は49.7%だったとする報告です。古いデータなので、今はもっと良くなっていると思いますが、再発しやすい病気です。
隠れ脳梗塞が起きるということは、動脈硬化が進んでいることを示しています。「隠れ」、つまり無症状なのは、大事にならない場所に梗塞が起きたためで、次は大事な場所で梗塞が起きるかもしれないのです。だから再発が怖いのです。
脳梗塞が再発したら
ですから、脳梗塞が再発したら
- まひが生じるかもしれない
- 「血管性認知症」になるかもしれない
という恐れがあります。
脳梗塞には3つのタイプが
脳梗塞は図のように、「細い血管が詰まる」「太い血管が詰まる」「不整脈」という3つのタイプに分けられます。
それぞれ微妙に原因が違います。基本的に加齢が原因ですが、促進する要素が加わって起きます。不整脈は誰にでもありますが、心房細動によって起きるものは危険です。
細い血管が詰まるタイプの脳梗塞
3つのタイプの脳梗塞を、一つずつ説明します。
細い血管が詰まるタイプは、MRIでは写らない細い血管が閉塞して小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)が生じます。
主なリスク因子(原因)は
- 高血圧症
- 脂質異常症(コレステロール)
- 糖尿病
- 喫煙
です。
脳の血流は、収縮期血圧が80~220mmHgくらいの間であれば一定に保たれると言われています。血圧は自覚症状がありませんから、しっかり測定し管理してください。
再発予防のためには生活習慣の見直しと、必要に応じて薬物療法を行います。生活習慣の見直しは、血圧の場合は塩分の管理です。コレステロールは脂肪の摂取を控えることです。運動は血糖や血圧を下げるとされています。また、高血圧症、脂質異常症、糖尿病は遺伝の要素も大きいので、その恐れのある人は注意してください。
薬物療法ですが、抗血栓薬(血液がサラサラになる薬)には脳出血の発症が増えるという副作用もあるので、無症候性脳梗塞には原則として投与しません。高血圧症、脂質異常症、糖尿病には投薬を行います。
太い血管が詰まるタイプ
太い血管が詰まるタイプは、MRIでも写る太さの血管が閉塞し比較的大きな脳梗塞を生じます。
主なリスク要因(原因)は「細い血管が詰まるタイプ」と同じで
- 高血圧症
- 脂質異常症(コレステロール)
- 糖尿病
- 喫煙
です。
再発予防のためには、同じく生活習慣の見直しと、必要に応じて薬物療法を行います。また、状況に応じて、抗血栓薬の投与を行います。どの程度、脳の血管が細くなっているかに応じて、バイパス手術やステントで血管を広げるカテーテル治療を行う場合があります。
不整脈が原因となるタイプ
不整脈が原因となるタイプは、心房細動という不整脈により起きます。心臓の中に血栓ができ、それが脳内に流れて比較的大きな脳梗塞を生じます。
心房細動は年齢とともに増えていきますが、起きているのを気付かない人が多いです。毎回毎回、バラバラに脈を打っているのが心房細動です。心房細動が起きると、血圧計がエラーになることもあります。
脳梗塞の再発予防のためには、抗血栓薬の内服が必要です。不整脈の原因になる部位を電気メスで焼き切るカテーテル治療(アブレーション)で、不整脈そのものを治療する場合もあります。発作性心房細動の有無は、1日24時間ずっと記録するホルター心電図で調べます。
どうやってみつける?
隠れ脳梗塞の有無を調べるためには、MRIが必要です。無症状ですので脳ドックの受診が原則です。脳ドックは自由診療で、洛和会音羽病院では洛和会京都健診センターで受診できます。
また、何か気になる症状があれば洛和会音羽病院の脳神経内科を受診してください。「らくわ健康教室で聞いた」と言っていただければと思います。
プロフィール
洛和会音羽病院 脳神経内科
副部長
木下 智晴(きのした ともはる)
- 専門医認定・資格など
日本内科学会認定内科医/総合内科専門医/指導医
日本神経学会専門医/指導医
日本脳卒中学会専門医
臨床研修指導医
洛和会音羽病院 ホームページ
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