- 開催日:2017年8月31日
- 講師:洛和会音羽病院 脳神経外科 部長 医師 山本 一夫 (やまもと かずお)
はじめに
本日は、脳卒中にならないために、また再発防止には何が大切かということを中心にお話しします。
脳卒中とは
脳卒中は、以下の3つの疾患に代表される、動脈硬化を基礎とした脳血管の病気です。
このうち、発症の75~80%を占めるのが、脳梗塞です。脳出血は20%前後、クモ膜下出血は5%前後です。
脳梗塞のうち、ラクナ梗塞は、脳血管のうち穿通枝と呼ばれる細い血管がつまる病気です。アテローム血栓性梗塞は、比較的太い脳血管が詰まる病気、心原性脳塞栓は、不整脈が原因で血栓が飛んできて脳血管が詰まります。これらのどれかに当てはまり、いったん詰まってもまた開通する場合は、一過性脳虚血発作と呼ばれます。
脳卒中治療の3原則
- 予防は最大の治療:火事に例えると、消火できても家の中は真っ黒、という場合がほとんどです。火事にならないことが、家を守る最大の方法です。脳卒中も同じで、予防に勝る治療はありません。
- 軽い症状を見逃さない:脳卒中は早く気付いて病院に行くことが重要です。「あのときに病院に行っていたら…」と思わずに済む対応を身に付けましょう。
- 生じた場合はできるだけはやく治療を開始する:早く治療するほど、軽くて済むことがほとんどです。
脳卒中の症状
以下のような症状がみられます。
- 運動感覚障害:手足顔面がまひしたり、しびれます。右手足のまひや、左手足のまひ、右顔面と口唇のまわりなどにおきます。左脳がやられると右半身、右脳がやられると左半身に障害が出ることが一般的ですが、梗塞する部位によっては右顔面と左手足にまひやしびれが出ることもあります。
- 言語の障害:構音障害や失語症がおきます。構音障害は、しゃべりにくい、ろれつが回らないなど。失語症は、思ったことが言葉にできなかったり、人の言うことが理解できない、などです。
- 視覚の障害:片眼が見えにくい、視野の半分が見えない(半盲)、ものが二重に見える(複視)、左右どちらかに注意が向かない(無視)。このうち半盲と無視は、自分では気付かないことが多いです。食事の際、左側においたものを全然食べない(見えていない)ので家族が気付き、受診された例もあります。
- 平衡感覚の障害:めまいや手の震えが起きます。ただ、これらの症状は、脳梗塞以外の病気で起きることもあります。
- 頭が痛い、吐き気、嘔吐(おうと):出血により頭蓋内圧が高まることでおきます。なかでも、クモ膜下出血は、バットで殴られたような痛さで、意識を失うこともあります。脳梗塞で頭痛が起きることはまれです(血管が詰まっても、すぐには内圧が上がらないため)
- 意識障害:意識がない、反応が鈍い、何かおかしい、名前や年齢、日付や場所が言えない。ただし、脳梗塞でも意識がしっかりしている人はたくさんいます。
脳卒中になってからでは…
脳卒中は、なってしまうと脳障害や後遺症が残りやすく、なかなか治りにくいのが実情です。薬や手術による治療はありますが、元通りになるのは、なかなか難しい。手術で治るわけではありません。
予防の重要性を知ってください。
予防の十か条
日本脳卒中協会では、以下のような脳卒中予防十か条を定めています。
以下、各項目ごとに説明します。
- 手始めに 高血圧から 治しましょう:血圧は、上が140以上、下が85以上だと高血圧と診断されます。毎日、家庭で血圧を測る習慣をつけましょう。ノートに記録してください。減塩や体重コントロールが大事です。
- 糖尿病 放っておいたら 悔い残る:血液検査で、血糖値やHbA1Cを調べましょう。糖尿病の予防には、体重コントロールや食事の改善などが大切です。
- 不整脈 見つかり次第 すぐ受診:不整脈には必ずしも治療を要さないものもありますが、心房細動は危険です。心臓にできた血栓が、血管を通じて脳に飛んでいく心原性脳塞栓の主要原因です。高齢者に多く、80歳以上では10%の人に心房細動が起きると言われています。手首に指を当てて、脈をみる習慣をつけましょう。脈が乱れているようなら、病院で診てもらってください。
- 予防には タバコを止める 意志を持て:タバコは、肺がんの危険以上に、脳血管に悪影響を及ぼします。血管収縮作用や動脈硬化促進、血液濃縮などを起こし、クモ膜下出血の危険因子です。
- アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒:少量のアルコールは動脈硬化の危険因子とはなりませんが、過量のアルコール、連日飲酒はだめです。多量飲酒はクモ膜下出血の危険因子です。
- 高すぎる コレステロール 見逃すな:総コレステロールより、悪玉コレステロールに注意してください。血液検査で分かります。食事療法や運動療法、内服(スタチン療法)などで改善を図ります。
- お食事の 塩分・脂肪 控えめに:これらを控えることで、高血圧や高コレステロールの改善や、体重のコントロールに努めましょう。
- 体力に 合った運動 続けよう
- 万病の 引き金になる 太りすぎ
- 脳卒中 起きたらすぐに 病院へ
脳卒中の治療
以下、脳梗塞の治療について、説明します。
脳梗塞超急性期の初期治療:薬で血栓を溶かすアルテプラーゼ(TPA)や、カテーテルで血栓を吸い出す血栓回収療法、2次予防としての薬物療法があります。
血栓回収療法
アルテプラーゼが効かなかった場合や、使えなかった場合で、発症後、おおむね6時間以内に行います。カテーテルを使って、脳血管に詰まっている血栓を吸い出す療法です。事例をあげて解説します。
来院時のMR検査やCT検査で、右側の脳に梗塞が起きていることが分かり、カテーテルを用いた血栓回収を行いました。15~20分後に右脳の血流が再開し、非常によく回復されました。結構大きな梗塞でしたが、大事なところをうまく外れていた点も幸いしました。
脳卒中の検査について
CTやMRI、MRA、頸動脈エコーがあります。CTスキャンは、脳出血がよく分かります。MRIやMRAで重要なのは、24時間、いつでも撮れる体制が整っている病院に行くことです。頸動脈エコーは、診療所でも可能なスクリーニング検査です。画像の精度を含め、検査技術は日進月歩で進んでいます。
慢性期の予防的治療
脳梗塞になってしまった後に飲む2次予防薬や、脳卒中に関連した薬には、以下のようなものがあります。
脳梗塞の慢性期外科的治療
頸動脈内膜切除術(CEA)や、頸動脈ステント留置術(CAS)、浅側頭動脈中大脳動脈吻合術があります。いずれも原則として、慢性期の安定した時期に、将来の脳梗塞の予防のために行われる手術です。
脳卒中ケアユニット(SCU)
脳卒中を起こした時、この体制が整っている病院に行くことが、最も必要なことです。SCUは、急性期脳卒中の治療とリハビリの要です。脳卒中を専門とする医師が24時間常駐し、看護スタッフ(3対1)や急性期リハビリ専属スタッフもいて、超急性期の脳卒中に対応します。
洛和会音羽病院では、2013年10月に6床で開設、2016年9月からは9床に増床されました。
脳卒中克服十か条
脳卒中になっても、再発防止に以下のようなことに気を付けましょう。
まとめ
脳卒中 予防にまさる 治療なし
症状があれば、一刻も早く脳卒中ケアユニットを有する病院(山科区内では洛和会音羽病院のみ)へ!
プロフィール
洛和会音羽病院
脳神経外科 部長 医師
山本 一夫 (やまもと かずお)
- 専門領域
脳血管障害の直達手術(頸動脈内膜はくり術、バイパス手術、脳動脈りゅう、脳動静脈奇形など)、脊髄脊椎外科、ITB療法 - 専門医認定・資格など
日本脳神経外科学会専門医
日本脳卒中学会専門医
臨床研修指導医
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