- 開催日:2018年2月14日
- 講師:洛和グループホーム大津 主席係長 介護支援専門員 岩井 仁志(いわい ひとし)
はじめに
介護福祉士として、認知症のお年寄りが暮らすグループホームで働いています。本日は、認知症のケアについて基礎からお話しします。
認知症といえば?
認知症と聞くと、すぐに思い出されるのは「物忘れ」でしょう。
では、加齢による物忘れと、認知症による物忘れは、どう違うのでしょう。
以下の図でよく説明されます。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
図のように、正常な老化に伴う健常な物忘れは、体験の一部だけを忘れるため、体験の他の記憶から、物忘れした部分を思い出すことができます。また、物忘れを自覚しています。
これに対し、認知症の物忘れは、できごと(エピソード)自体、全てを忘れているため、思い出すことが困難になります。物忘れを自覚できません。
認知症の種類と割合
認知症は、できごと自体を忘れるといいましたが、認知症のタイプによって、物忘れが目立たないものもあります。
以下、認知症の種類ごとに説明します。
アルツハイマー病:約55%
脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。
女性のほうが、やや多く発症します。進行は緩やかですが、周囲が認知症に気付いたときには、かなり進行してしまっていることが多いです。
食事作りなど、何かを共同で行うことが、対処法として有効です。
脳血管性認知症:約15%
脳神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が死んだり神経のネットワークが壊れてしまいます。
発作を繰り返すたびに急激に認知症が進行します。
男性の方が多く発症します。社交性や自発性が低下します。ろれつが回らなくなり、うまく話せなくなります。
レビー小体型認知症:約15%
幻覚、妄想が現れます。日内変動が多いです。パーキンソン病に似た歩行障害が生じます。
錯視(カーテンが揺れると人がいるように見えてしまうなど、実際と違って見える)が起こります。
前頭側頭型認知症:約5%
記憶障害は目立ちません。人格の変化が起きます。社交性や自発性が低下します。
常同運動(常に同じ行動を繰り返す)が起き、時刻表的な生活をします。
甘いものを好むようになります。反復言語を発します。(あのなー、なー、なー…というふうに)
認知症ケア
認知症は、誰でも起きる「中核症状」と、環境などによって異なる「行動・心理症状」(周辺症状)があります。
実生活では、中核症状だけで問題が起きることはまずありません。中核症状を取り巻く要素(◯の部分。不安や不快感、ストレスなど)が作用して、行動・心理症状が起きます。
認知症ケアの現場では、これらの要素をどれだけ減らせるかを考えて対応しています。
認知症ケアとは、病気などを原因とする物忘れなどの困り事に対して、ご本人の力を生かしながら必要なケア(手当て)をすることにより、可能な限りその方らしい生活ができるようにお手伝いをすることです。
事例1 食事の場面で
対応のヒント
-
- 言葉かけで「今」を伝える
「あー、そうですか。まずお茶を入れますね」「今作っていますよ」「あと15分でできますよ」…など、今◯◯していますよ、と伝える。 - 時計などの工夫
見える場所に時計を置いておいて、「10時か、お昼はまだだな」と納得してもらう。 - 興味のあることに誘う
暇な時間を減らすと、思い出す回数が減る。隙間がないように工夫する。 - お手伝いをお願いする
料理作りなど得意なことを手伝っていただくと、その前の事を忘れてくれる。
- 言葉かけで「今」を伝える
事例2 「財布を盗った」と職員を責める
対応のヒント
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- 一緒に探す
夜中に「炊飯ジャーがない」と言われ、1時間ぐらい一緒に探したことがありました。 - 保管場所を明確に伝える
「あそこに預かっていますよ」と伝えると、結構、それで納得してくれる。
- 一緒に探す
事例3 夕方になると家に帰りたくなる利用者
対応のヒント
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- Aさんの言う家がどこかを考える
若いときに住んでいた家のことを言っている場合も多いので、そんな際は家にまつわるご両親との思い出などに話を持っていくと、そちらに関心が移って帰宅願望が消えることがある。 - 何が不安で困っているのか「否定」や「強要」せずに寄り添う
その場所にいていいのか、不安を抱いている場合も多いので、一緒にいて不安を和らげてあげる。 - 気持ちに寄り添いあきらめを共有する
帰宅願望はご本人の不安が下敷きにある場合も多いので、その際は不安が薄れるような対応をしていると、「暗くなってきたし、今日は泊めてもらおうか」と言い始める。
- Aさんの言う家がどこかを考える
ケアの基本的態度・姿勢
以下のような態度や姿勢でケアに臨んでいます。
以上のように、認知症は種類によっても症状が異なります。認知症の知識を持っていただくことは、ケアを行う上で大事です。
それ以上に大事なのは、ご本人の生活がどういうものか、何を大切に生きてこられたか…といった、その方の「人となり」について、周囲の人が知っていることです。身内がなく、どういう生活をしてきた方か、何がしたいのか分からない方のケアが一番困ります。
「何よりもその方を知る」ことがケアの秘訣です。
自分が将来、認知症にならないとは誰も言えません。身内の人や周りの人に、ご自身の趣味や生活上で大事にしていることを話しておくことも大事だと思います。
質疑応答より
Q 遠くに暮らす兄弟が認知症になり、連れ合いさんがお世話をしています。私は何をしたらいいでしょうか。
A 世話をしている家族にとって、周りが支えてくれると思えることは力になります。「何かあったら言ってね」とご家族に伝えるだけでも支えになります。認知症が進行すると、肉親のことも徐々に分からなくなりますが、顔を見せに行くことは大きいです。
Q 認知症の親を自分の近くに呼び寄せたいのですが、環境が変わると良くないとも聞いて悩んでいます。
A 確かに環境の変化は認知症の方にダメージとなります。グループホームへの入居でも、当初はストレスがかかります。それでも、普段使っている身の回りの物を持ち込むなど、なじみの生活が続くような工夫をすると、比較的ダメ―ジを抑えられます。部屋ごと持ってこられれば一番良い、といったイメージです。
Q 自分が認知症になるのでは、といった不安があります。お医者さんからは大丈夫と言われていますが、予防法はないのでしょうか。
A 認知症には生活習慣も関係していると言われますから、運動や規則正しい生活などが大切だと思います。認知症に早く気付けば、治療薬もありますし、治療法の研究も進んでいます。たとえ認知症になっても、今の生活が維持できればいいと考えて、あまり不安がらないように暮らしてはいかがでしょうか。
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