- 開催日:2016年11月16日
- 講師:洛和会音羽病院 洛和会京都呼吸器センター 所長 医師 長坂 行雄(ながさか ゆきお)
はじめに
いびきをかいて寝ている時に、急にぱたっと息が止まり、しばらくするとまた息をする…身近にこんな人はいませんか。睡眠時無呼吸症候群が疑われるケースです。本日は、睡眠の仕組みや高齢者の不眠、睡眠時無呼吸症候群の診断や治療についてお話しします。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠時無呼吸の治療の歴史は、それほど長いものではありません。レム睡眠の発見が1953年、睡眠時無呼吸の症例が報告されたのが1965年(仏、独)で、1970年代に入るとSASは特別まれな症状ではないことが明らかになりました。1980年代には検査の方法が発達し、1990年代に入ると後でお話しするCPAP(シーパップ)治療が普及し、今日に至ります。
加齢と睡眠
高齢になると、生理的に眠りが浅くなり、何回かに分けて眠るようになります。50歳を超えると、ぐっすり眠るのは5時間ぐらいになります。若いころのようにぐっすり眠れないのは、病気ではありません。ぐっすり寝なければいけないという思い込みは捨ててください。部屋を暗くして、目をつぶっているだけでも実際は眠れています。睡眠薬は認知症の原因にも、転倒の原因にもなりますのでお勧めできません。
高齢者の不眠対策は、
- 服用中の薬剤は何かを確認する
- 午後のカフェイン、たばこを避ける
- 就寝、起床時刻を一定にする
- 昼寝は30分くらいに抑える
- できるだけ明るいところで過ごす
- 歩くだけでもいいので運動する
などです。
不眠を訴える高齢者に週3回、4週間の睡眠指導をしました。短時間の昼寝と、座ったり寝たりしながらできる軽い運動を続けた結果、よく眠れて昼間ははっきりする効果が確認できました。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
- 10秒以上の呼吸停止が睡眠中1時間に5回以上ある+昼間の過眠や夜間の不眠がある。
- 中枢型・閉塞型がある。
- 鼻・口の呼吸が通常の半分以下を低呼吸とし、無呼吸+低呼吸が1時間に5~10回以上ある。
このうち、SASの90%以上を占める閉塞性無呼吸症候群(OSAS)の特徴は以下のとおりです。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
日本には、240万人のSAS潜在患者がおり、このうち60万人は、後で述べるCPAP治療の候補者と推定されています。実際の患者数は、候補者の三分の一程度です。
睡眠の特徴(睡眠ステージと睡眠周期)
睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があります。どちらの睡眠でどの程度の状態にあるかは、脳波や眼球運動、筋電図などで確認します。
- レム睡眠:
夢を見る。脳波的に浅い睡眠で覚醒に近い。急速な眼球運動、筋緊張の低下(上気道閉塞を起こす)、反射の低下、呼吸循環の動揺が特徴。 - ノンレム睡眠:
浅いまどろみ(ステージ1)から、ぐっすり睡眠(ステージ4)まである。ステージ1、2が浅い睡眠、ステージ3、4が深い睡眠で、熟睡感が得られる。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の睡眠パターン
就寝後、健常な人は90分間隔で深い眠り(ノンレム3や4)が訪れ、明け方が近づくと眠りが浅くなります。しかしOSASの人は、ノンレム3や4がない浅い睡眠が続き、睡眠の質が悪いため、日中傾眠となります。
SASの交通事故への影響
2003年2月、山陽新幹線で運転士が居眠りして停止駅を通り過ぎてしまった事件があり、調べたところ睡眠時無呼吸症候群であることが分かりました。結果的にこの事件は、SASの危険性周知と認知度を高めました。実は、SASの人の交通事故発生率は、健常者の約7倍もあります。重症度が高いほど、事故発生率が高いこともわかっています。また、重症の人は高血圧や糖尿病になるリスクも健常者の約3~5倍あります。
睡眠時無呼吸の危険因子
以下のような人は睡眠時無呼吸になる恐れがあります。
- 肥満(とくに首が太い):
首の内側にも肉が付く。BMIが29を上回ると、リスクは10倍になります。
男性に多い。女性は閉経後、男性と同程度になります。 - 頭部、上気道の形態:
生まれつき喉の奥行きが浅い人は、太っていなくてもSASになりやすい。 - 年齢:
55歳以上に多い。 - 心臓疾患や糖尿病
- 遺伝
- 喫煙
- アルコールや鎮静剤、疲労:
睡眠剤を飲むと、SASはひどくなり、昼間はさらに眠くなります。
閉塞性無呼吸の原因
喉の形(喉が狭い、奥行きが浅い)も関係しますが、睡眠中に舌が重力で下がり、気道を閉塞させてしまうのが、閉塞性無呼吸の原因です。
眠気の評価
エプワース睡眠尺度を利用して、どんな時に眠気が出るか自己診断してみましょう。
点数を合計すると、正常な人でも7点ぐらいはあります。重症者は9点ぐらいですから、大して差は出ません。「ひまなときに眠ってしまうこともある」のは正常、「ひまだと、すぐ寝る」のは危ない、と思ってもらえればいいでしょう。
睡眠時無呼吸の症状と合併症
- 症状:
いびき、中途覚醒、日中傾眠、熟眠感不足、起床時頭痛、集中力低下、夜間頻尿、ED、抑うつ。 - 合併症:
高血圧、狭心症、心不全、不整脈、認知障害、精神障害。
睡眠時無呼吸の診断
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断基準は以下のとおりです。
外来検査では、携帯型睡眠ポリグラフを使います。業者さんが、お宅に届け、1晩か2晩、つけて寝ていただきます。
ほかにも、多くの検査機器があります。装着タイプの機器が増えたので、患者さまの負担が減りました。
上気道抵抗症候群(UARS)
上記のような検査をしても、無呼吸ではない。でもいびきをかく、昼間が眠い、という人は、このタイプの可能性があります。体力があるので、息はできるのですが、無理やり呼吸しているため、苦しくなります。
- 無呼吸、低呼吸なしでも、胸腔陰圧の増大に伴い、脳波で覚醒反応が頻回に出る。
- 上気道の閉塞に打ち勝ち、換気するが、ストレスになる。
- 弱年齢、女性でも肥満なしでも見られる。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療
比較的重症(AHI=無呼吸・低呼吸の程度が20以上)の人には、CPAP治療を行います。比較的軽症の人には、口腔スプリント(MAS)治療を行います。このほか、手術で喉を広げてやるUPPP治療もありますが、この療法は後で喉の粘膜が縮むため、めったに行いません。耳鼻科の先生とよく相談してください。
CPAP療法
鼻や口から空気を送り込んで、気道を広げてやる療法です。風船を膨らませるのと同様の仕組みです。酸素マスクのような形や、鼻の孔に入れるタイプがあります。
口腔スプリント(MAS)療法
比較的軽症の人に用います。マウスピースをはめて下あごを少し前に出してやり、気道を広げます。CPAPより効果は少し劣りますが、眠りの質は良くなります。人によってはあごが痛くなる欠点があります。
SAS治療の効果
無呼吸により心臓への酸素供給量が減ることで起きる疾患は多々あります。そのため、CPAPなどで睡眠時無呼吸症候群を治療すると、心筋梗塞や脳卒中の発生率が下がり、高血圧も改善され、糖尿病もよくなる…と、さまざまな効果が期待できます。
外来で受診された場合、問診→スクリーニング→簡易検査→精密検査などの手順を経て、CPAPなどの治療を行います。簡易検査は外来で簡単にできますし、CPAPをある程度、使い慣れると、睡眠の質が高まり、なしでは眠れない人が多くなります。元気で長生きできます。
プロフィール
洛和会音羽病院
洛和会京都呼吸器センター 所長
長坂 行雄(ながさか ゆきお)
- 専門医認定・資格など
日本内科学会認定内科医/指導医
日本呼吸器学会専門医/指導医
日本感染症学会認定医/専門医/指導医
日本アレルギー学会認定医/専門医/指導医
インフェクションコントロールドクター(ICD)
ECFMG certified
臨床研修指導医
日本胸部疾患学会認定医/指導医
洛和会音羽病院 ホームページ
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京都市山科区音羽珍事町2
TEL:075(593)4111(代)