- 開催日:2018年5月11日
- 講師:洛和会音羽病院 看護部 外来棟 副主任 皮膚・排泄ケア認定看護師 小西倫世(こにし みちよ)
はじめに
リンパ管は、動脈や静脈などの血管と同じように全身の皮膚のすぐ下に網目状にはり巡らされています。体の要所にあるリンパ管が合流する部分をリンパ節といいます。わきの下や首のつけ根、足のつけ根などにあり、この付近でリンパ液が正常に流れず、滞ってむくむ症状をリンパ浮腫(ふしゅ)と呼びます。
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リンパ節の働き
リンパ液の役割は、体内の老廃物の回収と運搬を行うことです。異物や細菌を血管に入れないようにする免疫機能を持ち、感染を防ぐという役目があります。血液は心臓をポンプにして全身に送り出すのに対して、リンパは呼吸や筋肉の動きによって流れます。
リンパ管系の損傷や閉塞によって、体液が正常に流れないために起こるのが浮腫です。筋肉が少ない方や、運動不足によってリンパが滞りがちになります。がんの治療などでリンパ液の流れが悪くなったときにも同じ症状が起こります。
リンパ浮腫の症状
早期から中等度までのリンパ浮腫の症状は、皮膚から静脈が見えにくくなることや皮膚のしわがなくなることで分かります。さらに、手や足が太くなりパンパンになって、だるさや重い感じがします。疲れやすくなり、指で付近を押すと、あとが残ることが大きなポイントです。
さらに重症化すると、皮膚が乾燥しやすく、硬くなります。象皮症と呼ばれるもので、毛深くなり、手首やひじ、指、膝などの関節が曲がりにくくなります。水泡や傷ができることもあります。急性で症状が進む全身性浮腫と比べると発症は慢性で、体の片側で起きることも特徴です。むくみがあるために感染を起こしやすく、急性炎症などの合併症にも注意が必要です。
早期発見のために
リンパ浮腫の有無と程度を早期に発見することが大切です。腕や足の皮膚の状態を毎日確認しましょう。静脈の見え方とともに、左右の皮膚の状態を比較する必要があります。腕や足の太さは毎回、同じ場所で同じ時間に定期的に測定します。同時に、スキンケアも欠かせません。皮膚の保湿に心掛け、皮膚を清潔にすることに気を付けましょう。日常生活では、まず日焼けをしないことと、水虫の治療を忘れてはなりません。長時間の入浴は避け、むだ毛の処理はなるべくしないようにしましょう。また、点滴や採血はなるべくむくみのない腕で行う方がいいでしょう。
リンパ浮腫の治療
リンパ浮腫の治療は、スキンケアとマッサージ、圧迫や運動を組み合わせた複合的な治療を行います。まず、スキンケアでは皮膚に赤みや熱がないかを確かめます。傷や虫さされがないことを調べるほか、水虫がないかを確認することも大切です。リンパ漏や水ぶくれがないかも確認します。
皮膚の潤いと皮膚の清潔を保つことを心掛けましょう。体を洗うときに、ナイロン布などで、ゴシゴシとこすると皮膚に傷をつくってしまいます。皮膚に傷をつくるおそれがあるため、深爪は避けましょう。衣類選びにも気を付けましょう。
手を使ったマッサージ
リンパ浮腫の治療のなかで、最も基本的なのは「徒手リンパドレナージ」と呼ばれる手を使ったマッサージです。これは、過剰にたまっているリンパ液を、マッサージによって適切な方向に誘導するもので、硬くなった皮膚の状態を改善します。ただし、感染症によって急性炎症がある場合や心性浮腫、下肢静脈に血栓がある際は施術できません。
自宅でのセルフケアにより、治療の効果を維持させ、症状の重症化を防ぐことが可能です。セルフマッサージは医師の指示のもとで開始します。痛みを与えず、やさしくゆっくりと皮膚に手のひらを密着させて行うのがポイントです。
リンパドレナージの方法
リンパ節が正常な場合は、両わきや足のつけね(そけい部)などリンパ節の方向に向けて流しますが、こうしたリンパ節に障害がある際は、リンパ節に向かって流しません。具体的には足のつけ根に障害があるときは、両脇のリンパ節に向かって、脇のリンパ節に障害があるときは、足のつけ根の方向にリンパ液を流すようにします。右脇のリンパ節に異常がある場合は、足の右つけ根と左脇のリンパ節に向けて流します。
顔のリンパドレナージ
顔のリンパドレナージをやってみましょう。まず、肩の前面から首に手を当ててマッサージします。鎖骨の上もマッサージします。これらは左右行い、目安は1カ所5回程度です。顔の前面のマッサージは、隙間がないように、少しずつ場所を変えてマッサージします。皮膚を動かすように、ゆっくりと手を動かします。顔の上半分、下半分を5回ずつマッサージするといいでしょう。目の周りは皮膚が薄いため、皮膚をこすらないように注意しましょう。おでこから眉毛の上、頭全体も5回ずつマッサージします。
圧迫療法と運動療法
徒手リンパドレナージで改善された状態を維持し、リンパ液の再滞留を防ぐのが圧迫療法です。筋肉や関節のポンプと協調し、静脈やリンパ液の流れを促進し、リンパ液の逆流を防ぐ効果があります。腕用のスリーブやグローブ、ミトン、足用はハイソックス、ストッキングなど弾性着衣を用います。一方、運動療法も有効です。弾性包帯や弾性着衣を着け、外部から適切な圧をかけた状態を保って運動することで、リンパ液が流れやすくなります。
日常生活で気を付けること
リンパ浮腫は日常生活の工夫で予防することができます。まず、長時間にわたって足を下に下げないようにしましょう。肥満を避けるために、体重をコントロールすることも大切です。また、着ている服や、身に付けている時計や宝飾品で皮膚に傷を付けないように注意しましょう。運動は、圧迫した状態で行うようにし、強いマッサージや鍼灸治療は避けてください。
まとめ
リンパ浮腫の症状が現れたときは、自己管理を正しく行うことで、むくみを改善することができます。身の回りの変化に気付いた場合は、医師に相談して適切な治療を始めることをお勧めします。
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