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医療 洛和会音羽病院

病院に行くの、今行った方がいいの? 明日でいいの?

投稿日:2018年11月29日 更新日:


はじめに

皆さんの中には、インフルエンザや風邪が疑われる急な発熱や激しい下痢、あるいは頭を強く打つ、またはおなかが激しく痛むなどの症状が出た経験のある人もいることでしょう。その際、あまりの熱の高さや体のつらさに「病院へ行こうかな」と思った人も多いのではないでしょう。

しかし、今すぐに病院に行くべきか、明日まで待つのか、自宅でできることはないのか、いつ病院に行くかの判断に迷うことも多いはずです。今日は、インフルエンザなど急病や、けがをした場合の病院へ行くタイミングについてお話したいと思います。

インフルエンザ、予防接種に勝る予防なし

インフルエンザは、ウイルスが鼻やのどから入り、感染して体内で増殖します。このウイルスは、どのように人の体内に入るのでしょうか。ウイルスに感染した人のせきやくしゃみを吸い込むことで体内に入ります。ウイルスが付いたドアノブやつり革、手すりに触れた手で口や鼻を触るなどした場合です。ウイルスに感染すれば38度以上の発熱、全身のだるさ、関節痛、せき、のどの痛みに襲われます。流行のピークは、1月から2月です。

予防対策には、事前の予防接種に勝るものはありません。インフルエンザが発症する可能性を減らし、重症化を防ぐ役割があります。毎年、流行するウイルスの型が変わるため、定期的に予防接種する必要があります。予防接種は、流行期の始まるまでの12月中旬までに行うのが良いでしょう。接種後約2週間~5カ月間の予防効果が期待できます。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

迅速検査は早すぎてもダメ

実際にインフルエンザに感染しているかどうかを知るには、病院で検査をする必要があります。いわゆる、迅速検査です。実は、「インフルエンザかな」と思って、病院に駆け込んでも、あまりに早い段階での検査ではインフルエンザとは診断できないのです。

一般的にインフルエンザにかかったと診断できるのは、原則、発熱などの症状が出て、24時間~48時間以内と言われています。発症から24時間以内の場合、迅速検査では診断できないのです。その上、24時間以内だと、抗ウイルス薬の有効性も乏しいのです。ですから、発熱やせきなどの初期症状が出たときは、1日経ってから病院へ行き、迅速検査をするのが良いでしょう。

自宅でできるインフルエンザの対応

しかし、インフルエンザの心配があるのに、そのままにしておくことは良くありません。1週間以上、症状が続く場合もあります。自宅でもできる風邪やインフルエンザ対応としては、解熱鎮痛薬の服用が良いでしょう。安全に使用できる薬剤は「アセトアミノフェン」で、当院での処方名は「カロナール」錠です。1日4回ほどの服用が良く、同じ成分の市販薬「タイレノール」(1錠300mg)が挙げられます。体重あたり10mgが目安で、60kgの方は600mgが一回量となります。抗インフルエンザ薬の服用は、ウイルスが増殖する48時間が目安となります。症状が1日程度短縮するほか、悪化を和らげ、合併症が起こるのを防ぐ効果が期待されます。

風邪やインフルエンザにかかった場合、十分な休養とともに、栄養摂取と水分補給も大切です。塩湯うがいは日本でも古くから風邪のときによく試みられる民間療法ですし、アメリカではチキンスープが良いとされています。要は滋養強壮に良いものがお勧めです。

下痢やおう吐が激しいときは

急に吐き気やおう吐、下痢があったときは心配ですね。急性発症の吐き気、おう吐、水のような下痢であれば、ウイルス性胃腸炎の可能性がかなり高いと判断されます。季節的には、冬場であればノロウイルス、夏であればカンピロバクター、サルモネラなどの細菌が原因だと考えられます。基本的には対処療法である整腸剤や吐き気止めで対応できます。

逆に、抗菌薬を使用するとO-157(腸管出血性大腸菌)の場合、溶血性に尿毒症症候群(HUS)の危険性があり重症化したり、サルモネラ腸炎も、排菌期間を延長させる可能性があり、安易な抗菌薬はお勧めできません。すべて経口感染し、下痢やおう吐の症状が消えるまで休養と警戒が必要です。

ただし、1カ月くらいは便に排菌されるようです。手洗いや排泄物の取り扱いにご注意ください。ノロウイルスは、消毒が厄介です。アルコール消毒はできず、厚生労働省のガイドラインでは、食品の中心温度を85度から90度で90秒以上加熱しなければなりません。一般的な加熱では不十分ですので、注意が必要です。

下痢やおう吐にも危険サインがある

下痢やおう吐にも、発症当日に病院に来ていただきたいケースがあります。発熱が38.5度以上、血便を伴う脱水状態があるとき、ひどい腹痛や渋り腹のとき、それに本人の免疫力が低下している場合です。いずれも、点滴や抗菌薬の使用が必要な可能性があるためです。

一方、下痢やおう吐があるとき、薬局で購入できる薬もあります。整腸剤「ミヤリサン」、あるいは下痢の吐き止め薬である「五苓散」が安全に使用できます。

顔面やけどや犬にかまれた際は病院へ

けがをした際の危険サインは明確です。熱傷(やけど)では、関節や陰部、顔面などにやけどを負ったときは、その日のうちに病院に来てください。切り傷(切創)や擦り傷(擦過傷)で、なかなか出血が止まらない場合、あるいは運動感覚に障害があるときには病院にお越しください。また、犬や猫などにかまれた(動物咬傷)場合は、抗菌薬の投与が必要です。破傷風の予防が必要なこともあり、すぐに病院で手当てを受けることが大切です。

一方、自宅でできる傷の手当ての基本をお話しします。やけどの傷口は、水道水などの流水でまず洗い流して異物の除去をしてください。切り傷や擦り傷の場合は、消毒をしないようにしてください。犬や猫にかまれた場合も塗り薬と傷口に付着しないガーゼを使用し、応急処置するのがいいでしょう。

子どもの転倒、頭部打撲はCT検査で観察を

時には小さなお子さんが転倒し、頭を打つことがあります。外傷性脳損傷は幼少期の死亡や障害の原因としては最も多いです。集中治療室で手当てを受けたり、入院が必要な状態であることを早期発見することは、大切なことです。ただし、一方で頭部CTを3回受けることで白血病や脳腫瘍のリスクが3倍になります。小児への被ばくリスクを考えることも重要です。

2歳未満の場合、頭を打った後の意識が良い、つまり親から見て普段通りであり、前額部以外にタンコブがない、意識を失ったのは5秒以内、赤ちゃんの身長の2倍以上の高さから転落していないような場合はCT検査はお薦めできません。

2歳以上の小児の場合も、おう吐や意識の消失がなく、激しい頭痛もないときにはCT検査はお勧めしません。頭を打った子どもへの対応で、CT検査を行うよりも大事なことは、時間を追って、1日程度の経過をよく見ることです。興奮した状態がないか、傾眠あるいは視線が合わないことがないか、子どもの意識の変化やおう吐が3回以上ないか、激しい頭痛を訴えていないかなど、症状をよく観察することが大事です。

脳梗塞の予兆があれば、最低4・5時間以内に

脳血管疾患(脳卒中)の兆候を見抜くことも大切です。合言葉は「FAST」です。まず、FACEです。顔の片側が下がったり、顔にゆがみがあるときです。次にARM、腕のマヒです。片腕に力が入らない、どちらか一方の腕が上がらないの症状です。次はSPEECH、言葉の障害です。言葉がもつれる、うまく話せないなどの症状です。このうち1つでも症状が出ていれば、脳卒中の可能性が高いです。脳卒中は治療の遅れが命に関わる病気です。

最後はTIMEです。こうした病状に気が付けば、発症時間を確認して、すぐに119番してください。最後に普段通りだと確認された時刻から4~5時間以内に病院に搬送していただければ、検査に約50分かかるとしても後遺症を減らすことができる可能性は高いのです。洛和会音羽病院の救命救急センター・京都ERはこうした重症患者や重篤患者を受け入れる診療機能を持っています。

病院を上手に使い分けよう

以上で、インフルエンザや風邪、下痢、頭部打撲など、日常的にありそうな病気やけがの際、急いで病院に行くべきか、家庭にもある一般薬で当面はしのげるかがお分かりいただけたでしょうか。比較的軽症、軽傷の場合は、病院で受診しても待ち時間は2時間以上になります。

一方で、冬場の病院は流行性感冒(インフルエンザなど)で訪れる人も多く、暴露リスクも高まります。何が何でも救急受診にこだわらず、一般の病院受診と市販薬での応急対応を使い分けることも重要です。


プロフィール

洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER
副部長
宮前 伸啓(みやまえ のぶひろ)

  • 専門領域
    救急、外科
  • 専門医認定・資格など
    日本救急医学会専門医
    日本外科学会専門医
    臨床研修指導医
    日本DMAT隊員・統括DMAT

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