はじめに
皆さん、緑内障についてどの程度知っておられますか。インターネットなどで調べられる方も多いと思いますが、実は私も医学生のとき、緑内障はとっつきにくい病気でした。今日は皆さんに、緑内障はどういう病気なのか知ってもらおうと思います。
患者さんから聞かれること
外来で患者さんに緑内障だとお伝えすると、次のように聞かれることがあります。
- 「失明しますか?」
- 「すぐに手術ですか?」
- 「目薬をさしたので、もう治ったと思っていました?」
そういう患者さんには、緑内障とはどういう病気であるのかを説明することから始めます。まず緑内障についての基本的な知識を深めてもらうことが大切です。
緑内障とはこんな病気
緑内障の診療ガイドラインは「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる目の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と書かれています。
もっと簡単に言うと、眼圧が原因で視神経が傷んでしまい、視野が狭くなる病気です。逆に言えば、眼圧を下げれば病気の進行を抑えられます。
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眼の構造から見てみましょう
眼を水平に切ると、次のような図になります。
眼球の中にはゼリー状のものが詰まっています。水を入れて膨らませた水風船のようなものです。この水風船をつつくと「硬さ」があります。この「硬さ」が眼圧です。
緑内障では、眼圧が悪さをして視神経が集まった視神経乳頭という部分に変化が起きます。
眼圧の目安は
眼圧は通常、10~20mmHgです。
21mmHg以上は高眼圧といわれ、検診では緑内障と指摘されることがありますが、高眼圧=緑内障ではありません。
眼圧が正常値より高ければ、その分緑内障の発症や進行のリスクは高くなりますが、実は日本人の場合、緑内障患者の7割くらいが正常の眼圧です。
視神経が傷み、数が減ります
緑内障で変化が起きる視神経とは、脳と眼球をつなぐケーブル・配線に当たる部分です。
120万本程度の視神経繊維が束になっています。緑内障ではこの繊維が傷んで、数が減ってきます。
健診の眼底検査で緑内障だといわれた方は、この部分に異常がでているのです。
問題なのは、一度傷んだ視神経は元通りには治らないことです。
視野に影響が出ます
まっすぐ正面を見たとき、正面のよく見えるところと、周りの何となく見える範囲の全体を視野といいます。正常な視野は上の範囲は60度、下は70度、右目の場合、右側が90~100度、顔の中央側が60度といわれています。
緑内障になると、この視野が欠けてきます。多くは上半分や下半分、鼻側から視野が欠けてきます。進行すると欠けた部分が大きくなってきます。
高齢になるほど増えます
40歳以上の方では20人に1人が緑内障とみられています。緑内障の患者さんは年齢とともに増え、60歳代では40歳代の3倍、80歳代では5倍に増えます。
低い受診率
実際に治療を受けている方は緑内障の患者さんの1割程度といわれています。緑内障が進行しても視野の真ん中が残ることが多く、見えなくなった部分が黒くなるわけでもないので、視野のかなりの範囲が見えなくなってからでないと異常を自覚しにくいからだと考えられています。
しかし、緑内障で見えにくくなったところは治療しても治りません。そのことを知ってください。
緑内障には2種類あります
緑内障には、遺伝的な要因によるものと、眼の構造の変化によるもの(別の病気の薬によるもの、外傷によるもの、眼の他の病気によるもの)とに分けられます。
どちらも、治療となると効果があるのは眼圧を下げることだけです。
眼の中の構造変化による緑内障も
眼の中の水分が自然に流れていれば眼圧が一定に保たれるのですが、眼の中の構造の変化でその排水溝の流れが詰まったり、排水溝がふさがる「閉塞隅角」という状態になることがあります。
「閉塞隅角」は手術が必要です。また、急に発症した場合は、充血や眼がかすんだり、眼痛、頭痛が起きることがあります。これを緑内障発作とも呼んでいます。閉塞隅角は眼の外傷歴のある人や遠視の強い人が起きやすいので、注意してください。
他の原因でも
薬による影響にも注意してください。ステロイドといわれるホルモン製剤の内服や軟膏で眼圧が異常に高くなることがあります。アレルギー性結膜炎の目薬の中にも眼圧が高くなる原因になるものがあります。
また、眼を強くぶつけたことがあるなど、過去に眼のけがをした場合も、知らないうちに眼圧が異常に高くなることがあります。
治療はまず眼圧を下げること
緑内障が悪くなる原因は眼圧です。眼圧が高いほど病気は進みますので、治療は眼圧を下げることです。下げることで病気の進行を抑えたり、進行を緩やかにすることができます。
眼圧を下げるためには
目薬と手術を状態に応じて選択しますが、目薬を使うことが多いです。目薬にも非常に多くの種類があります。
手術も眼圧を下げるための手段で、手術により見えやすくなることはありません。また治療の効果が生涯続くとも限りません。目の感染症などのリスクにも注意が必要です。
早く発見し、早く治療しましょう
病気の進行の速さは緑内障の種類や眼圧などによって違ってきます。見えなくなったところは元に戻りませんが、正常な視野がたくさん残っているほど、失明しづらいです。
緑内障は現在の医療で完治する病気ではありませんが、早く発見して適切な治療をすれば、多くの場合、進行を遅らせて生涯困ることのない視力や視野を維持することが可能です。治療をしっかり続けていきましょう。
食生活などで注意することは?
コーヒーなどに含まれる、カフェインを多量摂取すると眼圧が高くなるといわれていますので、注意してください。ただ緑内障に直接大きな影響があるものではないと思います。
たばこは一過性の眼圧上昇を来すほか、活性酸素が視神経にダメージを与える可能性も考えられますので、控えたほうが賢明です。飲酒は眼圧が一時的に下がるといわれていますが、緑内障の治療になるようなものでなく、適度であれば問題ないと思います。
食生活で特に良い物も悪い物もありませんが、健康的な食事や生活が大切です。糖尿病や高血圧は緑内障にもよくありません。
緑内障のサプリメントもあります。病院で取り寄せる形になりますので、病院で尋ねてください。
ほかにもある注意点
ほかに
- ネクタイを強く締める
- 強度の強い運動(高負荷の筋力トレーニングやヨガなど)
- 強く息むような吹奏楽器の演奏
など眼圧を上げる行為があります。注意してください。
最後に一言。早期発見と継続的な治療が大切です!
緑内障では一度悪くなってしまった視力や視野は、元通りにはなりません。
病気がかなり進行してしまった状態では、目薬による効果が不十分になったり、手術が難しくなることも多いです。早期治療と定期的な診察、継続的な治療が大切です。
質疑応答から
Q 白内障の手術をしないで放置すると、緑内障に進むことがあるんですか?
A 白内障を放置すると眼のレンズ部分が膨らんだりして、眼圧が高くなるケースがあります。それが心配される場合には、早めに白内障の手術をされた方がいいですね。
Q 緑内障で視野が欠けた部分は黒く描かれていますが、どう見えるのですか?
A グレーっぽく、白っぽく見えるという人もいます。見えなくなるので、見えていないことが認識できません。
Q よほどひどくならないと気付かないのですか?
A 視野が4分の1くらいまで欠けないと、気付かないとも言われています。
Q 薬で完治しないのですか?
A 完治しません。困らない範囲の視野をどう維持するかが大切になります。少しでも早く治療を受けることが大切です。
プロフィール
洛和会音羽病院 アイセンター
医長
宇根 宏容(うね こうよう)
- 専門領域
緑内障、白内障 - 専門医認定・資格など
日本眼科学会専門医
洛和会音羽病院 ホームページ
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