はじめに
私は薬剤師になって11年目です。
薬剤師の仕事は幅広く、あまり知られていませんが、今年開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、ドーピング予防のために薬剤師が関わっています。アンチ・ドーピングの規則に関する知識を持った薬剤師を「スポーツファーマシスト」と言います。
また、高齢社会に合わせて「老年薬学認定薬剤師」の資格が作られています。超高齢社会では、薬剤師に求められる役割が大きくなっています。京都でこの資格を持つ薬剤師が現在8人いますが、私はその一人です。
ポリファーマシーとは
「ポリファーマシー」とは薬の多剤併用のことです。
最近、週刊誌などで薬の多剤併用や、飲んではいけない薬とか薬の特集が増えています。それだけ世間から注目されているのだと思います。年をとると、病院で処方される薬が増え、多剤併用が増えてきます。注意したいですね。
多すぎる薬
1人の患者さんが1カ月に薬局で受け取る薬の数は、年齢が上がるにつれて増えています。飲んでいる薬の量と、副作用が起きる頻度を調べグラフにすると、図のように薬の数が5~6種類を超えると、副作用が起きやすくなっており、ポリファーマシーになる目安です。
多すぎる薬については最近、新聞でもよく登場します。多剤併用により、起きる症状は図のように、食欲低下、ふらつき・転倒、排尿障害、便秘、物忘れ、うつ、せん妄など数多くあります。当てはまる症状はありませんか?
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
高齢になると薬が効きすぎることがあります
薬を飲んでから吸収し体外に排出されるまでは、胃(薬を吸収する)→肝臓(代謝する)→腎臓(主に代謝する)というプロセスを踏みます。
高齢になると、胃、肝臓、腎臓のそれぞれの機能が低下することがあります。腎臓の機能が落ちると、薬の成分を体外に出しにくくなります。
年をとるとお酒に弱くなりますね。薬もそれと同じ原理で、分解・排せつする力が低下することで、体内に薬が残り、必要以上に薬が効きすぎてしまうことがあります。注意が必要です。
薬が多くなると飲み忘れが多くなります
写真(下)は、患者さんが病院に入院されたときに、これまでもらっていたと持参された薬です。大変な量です。
飲み残された薬の量が膨大です。75歳以上の在宅高齢者が飲み残した薬は475億円にのぼるというデータがあります。また日本全体で飲み残されている薬は1000億円以上にのぼると言われています。今、国もこれを問題視しています。
ポリファーマシーになると
ポリファーマシーになると、薬による副作用が増え(特に高齢になると)、飲み忘れや飲み間違いの可能性も増えます。多剤併用は減らすことが大切です。
でも、減らすことは重要ですが、自己判断で薬をやめないでください。かかりつけ医と相談して処方された薬を正しく飲みましょう。
薬を飲んだ後の薬の血中濃度と薬の効果をグラフにしました。服用する時間を守って飲まないと、薬の濃度が下がってしまい効果が出ません。でも、逆に過剰に飲むと薬が効き過ぎて危険になります。
定期的に飲んでいる薬を見直しましょう
厚生労働省も、高齢者の「薬漬け」を防ぐための指針を出しました。まず、大切なのは定期的に飲んでいる薬を見直すことです。かかりつけ医やかかりつけの薬剤師に、やめることができる薬がないか相談してください。自分の判断で勝手にやめないことです。「薬が多くて大変です」と相談するといいです。医者に言いにくければ、薬剤師に相談してください。
そのためにも、かかりつけ医と同じようにかかりつけの薬剤師を見つけましょう。そうすると安全・安心に薬剤を使用できます。薬剤師だからこそできる支援があります。薬剤師なら、1日1回の服用ですむ薬への変更や、口腔内崩壊錠や貼付薬など、服用しやすい薬に変えることも検討してくれます。
お薬手帳を活用しましょう
皆さん、お薬手帳を持っておられますか?
実は、まだ約3割の人がお薬手帳を持っておられません。年齢別に調べると、表(下)のような結果になりました。年齢が低くなるほど、お薬手帳を活用されていない人が多いですね。
お薬手帳を持ってないと、服用している薬が把握しにくくなります。いろんな病院や診療所を受診されていると、薬も増えてしまいます。お薬手帳により、服用している薬が把握でき、飲み合わせの確認などができます。
またお薬手帳には、薬を飲んでからの体調の変化も記入してください。そういったことから不要な薬を見つけてもらえます。
薬の飲み方の工夫
薬が飲みにくくないですか? 数が多かったり大きかったりすると、飲みにくいですね。
薬を飲みやすくするために、オブラートに包んで飲む方法があります。オブラートはジャガイモやサツマイモのでんぷんで作られています。オブラートはしっかり水につけてゼリー状にしてから服用しましょう。薬の苦味も防ぐことができます。また、服薬ゼリーも売っています。薬の苦味が気になる方は使ってください。
口腔内崩壊錠(OD錠)といって、口に入れると唾液でとけるため、水がなくても飲むことのできる薬があります。今の薬が飲みにくいと感じておられる方、1日に飲む水の量が制限されている方、外出先でも薬を飲む機会が多い方は薬剤師に相談してください。
薬の飲み間違いや飲み忘れを予防するアイテム
薬がいくつもになると、出しにくく、分かりにくくなりますので、一つの袋にまとめ「一包化」すると飲みやすくなります。かかりつけの医師や薬剤師に相談してください。
その日に飲む薬をカレンダー方式で入れる「服薬カレンダー」があります。いろいろなタイプが市販されているので、利用してください。1週間単位のものが分かりやすいようです。また、ケースで管理するものもあります。活用して薬の管理を見直してください。
生活習慣の見直し
薬漬けでは健康な生活が難しいです。要介護にならないように、食生活など生活を見直し、薬に頼らない生活をすることが大切です。
「フレイル」という言葉を知っておられますか? 加齢と共に心身の機能が低下し「健康」と「要介護」の中間の状態にあることを言います。多くの高齢者がフレイルを経て要介護状態になりますから、フレイルを予防することが健康寿命を伸ばすことにつながります。そのためには、薬に頼らないことが大事です。
まずは睡眠薬の利用ですが、皆さん、夜は眠れていますか? 実は、加齢に伴い、夜の睡眠時間が減少します。そして就床、起床時刻が早まります。年をとると眠れなくなるのは当たり前という認識を持つことが大切です。入院患者さんからよく「眠れない」と相談を受けますが、睡眠薬は飲まないように話します。
睡眠薬に頼らない解決法があります。定期的な運動や、寝室環境の整備(テレビをつけっ放しにしないなど)、就寝前の水分・カフェインの摂取をやめることです。
定期的な運動は大切です。何もしないと筋肉は衰えます。定期的な運動をして筋肉の衰えを遅らせましょう。
そしてバランスのいい食事をしましょう。一日3食しっかり食べることが大切です。特にたんぱく質をしっかり取るようにしましょう。たんぱく質は筋力を作る成分です。
まとめ
薬を減らすこと自体が目的ではありません。副作用のリスクから高齢者を守ることが目的です。薬と上手に付き合うために、定期的に飲んでいる薬を見直しましょう。そのために信頼できるかかりつけの薬剤師を見つけてください。
質疑応答から
Q かかりつけの薬剤師をどう見つけたらいいですか?
A 選ぶ薬剤師は一人でいいと思います。自分が良いと思う薬剤師を選んでください。
洛和会音羽リハビリテーション病院
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