- 開催日:2017年2月15日
- 講師 洛和会丸太町病院 外科・消化器センター 副部長 医師 出口 勝也(でぐち かつや)
はじめに
腹腔鏡手術は、痛みが少なく、傷が目立たないなど、患者さまにとってメリットの多い手術です。近年の医療器具・技術の進歩により、手術が適用となる病気は増えています。一方で、腹腔鏡特有の合併症(手術などがもとになって起こる病気)もあり、利点・欠点を理解しておくことが大切です。本日は、腹腔鏡手術について、大腸がん手術を中心にお話しします。
腹腔鏡手術とは
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
開腹手術と比べての利点と欠点
腹腔鏡手術は、傷が小さく、内視鏡で病変部を拡大できるので、以下のようなメリットがあります。
- 手術の傷が目立たず、美容上優れます
- 術後の痛みが軽減します
- 治りが早く、入院期間が短くなります
- 早期に社会復帰や日常生活ができます
- 細かい作業ができるので、出血が減ります。
開腹手術と比べて時間がかかるケースもありますが、安全に行えばデメリットはありません。ただし、以下のような場合は、開腹手術に変更して対処します。
- 手術中に予期できない出血があったとき
- 強い癒着があり、安全な手術ができないとき
- 手術操作に制限があるとき(手術の角度や体形などで)
どんな病気が腹腔鏡手術で治療できるか?
以下のような病気が対象となります。当院では適応症例に対して原則的に腹腔鏡で手術を行っています。
- 早期胃がん
- 大腸がん(結腸がん・直腸がん)
- 胆嚢(たんのう)結石症・胆嚢ポリープ
- 急性虫垂炎(盲腸)
- 鼠径部ヘルニア(脱腸)
- その他 このうち出血と感染は、腹腔鏡手術の方が少ないです。
大腸がんについて
大腸がんは、結腸から直腸に生じ、罹(り)患数が最も多いがんです。罹患者や死亡者は年々増えており、罹患者は男性が7万5千人、女性は5万7千人(2015年統計)に、死亡者は男性が2万7千人、女性は2万3千人(2012年統計)に達しています。罹患者の3~5割の方が亡くなられているわけですが、逆に言えば治療して元気になられた方も多く、予後も延びています。早期に発見できるほど、生存率も高まります。
大腸がんの臨床病期と治療
腹腔鏡手術の利点は、以下のとおりです。
開腹手術と比較すると傷が小さくなり、体だけでなく臓器への負担も少なくなります。
- 小さな切開創:痛みを軽減し、整容的に優れます。
- 狭い空間での拡大視野:出血量が減少します。機能(肛門、排便、排尿、性)を温存します。
- 術後在院日数の短縮化:通常術後7~10日で退院でき、早い社会復帰が可能です。健康保険が適用され、費用負担は開腹手術とほとんど差がありません。
- 再発率、生存率が同等:長期成績に及ぼす影響は同等とされています。
- 低侵襲…体への少ない負担:術後数日より歩行可能⇒足腰が弱りにくい。腸管蠕(ぜん)動運動の早期回復⇒術後癒着を起こしにくい。経口摂取の早期開始(術後2~3日後より可能)⇒体力が落ちにくい。
- 低い合併症発生率…体への少ない負担:予定通り退院できる。肺炎を起こしにくい。嚥下(えんげ)能力が低下しにくい。
- 術後せん妄(興奮して、話す言葉やふるまいに一時的混乱が見られる状態)になりにくい。
大腸がんの腹腔鏡手術の実際
腹腔鏡専用の細い手術器具を用い、細やかに手術を行うことで、出血や臓器への負担を少なくすることができます。
- 手術後の流れ
通常、翌日より飲水が始まり、手術後4日目からは食事も始まります。翌日から歩行もできますし、2日目からはシャワーも可能です。4~5日目にドレーン(管)を抜去し、術後7~9日目に退院となります。 - 外科領域の他の腹腔鏡手術
当院では、原則的には適応症例は腹腔鏡で手術を行っています。
最後に
腹腔鏡手術は、痛みが少なく傷が目立たないなど、メリットの多い手術です。費用負担は開腹手術とほとんど変わりません。入院期間の関係などで腹腔鏡の方が安い場合もあります。患者さまの病状に応じた治療法をご提示します。他院への紹介やセカンドオピニオンも行っています。どんなご質問でもお気軽に外科外来でお尋ねください。
質疑応答から
Q 腹腔鏡手術は、何人の医師で行うのですか。
A 外科3人(術者、助手、カメラ担当)と麻酔科医1人の計4人で行います。
Q 大腸がんを早期に発見できる方法は
A 確実な方法は、大腸カメラですが、検便を定期的にして便潜血の有無を確かめるのも良いでしょう。
プロフィール
洛和会丸太町病院 外科・消化器センター
副部長
出口 勝也(でぐち かつや)
- 専門領域
消化器外科、一般外科 - 専門医認定・資格など
日本外科学会認定医/外科専門医
日本消化器外科学会専門医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本内視鏡外科学会技術認定(大腸)
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