- 開催日:2017年7月27日
- 講師:洛和会音羽病院 透析センター センター長 兼 腎臓内科 部長 山口 通雅(やまぐち ゆきなり)
はじめに
CKDとは、慢性腎臓病の略で、新たな国民病ともいわれる疾患です。本日は腎臓の構造と働き、慢性腎臓病とは、慢性腎臓病の診断と治療についてお話しします。
腎臓の構造と働き
腎臓は、腰骨の少し上あたりの背中側に2つある、こぶしよりやや大きい臓器です。糸球体という毛細血管の塊のようなものが左右の腎臓に約100万個ずつ存在し、このなかを血液がぐるぐる回るうちに、老廃物を分離しておしっこに出し、きれいな血液は体に戻す働きをします。糸球体が壊れると、赤血球やたんぱくがおしっこに混じり、尿潜血や尿タンパクとして観察されることになります。
老廃物の排泄が最大の働きですが、それ以外にも、体内水分量の維持(尿の濃さや量を調節する)や、体液組成の調整(不要になったナトリウム、カリウムなどの調整を行う)、酸(さん)塩基(えんき)平衡(へいこう)の調整(血液を弱アルカリ性に保つ)、内分泌作用(エリスロポエチンの産生やビタミンDの活性化)を行っています。
慢性腎臓病(CKD)とは?
CKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)とは、腎臓が悪い症状のほとんどを含んだ概念です。尿にタンパクが漏れている、尿に血が混じる、腎臓の機能が半分ぐらいと言われた、多発嚢胞(のうほう)腎になった家族がいる、腎不全(慢性腎不全)、腎機能障害、腎機能低下、ネフローゼ…これら全てをひっくるめた概念がCKDです。
CKDの定義
- 尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか(特にタンパク尿の存在が重要)
- GFRが60以下(GFRは、腎臓の機能を100点満点で表した数字です)
上記2つのいずれか、または両方が3カ月以上持続するときに、CKDと診断します。
CKDの重症度
CKDの重症度をCKDの原因(Cause)と、腎機能(GFR)、タンパク尿(A:アルブミン尿)という3つの指標で評価します。それぞれの頭文字をとってCGA分類といいます。
- 原因(Cause)となる疾患は、一番多いのが糖尿病性腎症で、ほかに腎硬化症、慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎、腎移植、などさまざまです。
- 腎機能(GFR)は、腎臓の機能を100点満点で表し、6段階に分類されます。この数字が60から減るに従ってCKDが悪化していることを示します。
- タンパク尿(A:アルブミン尿)は、3段階のクレアチン比で表されます。A1は正常、A2は軽度タンパク尿、A3は高度タンパク尿です。
以上の3つの指標を掛け合わせたCKDの重症度は以下のとおりです。
赤い部分ほどCKDの重症度が高いことを示します。
なぜCKDが重要?
背景には、世界中で透析患者さまが増加していることが挙げられます。日本の場合、成人人口の約13%にあたる1,330万人がCKDとされ、このうち約32万人が透析患者さまです。糖尿病、高血圧などの生活習慣病が原因となるCKDが増加しており、末期腎不全や心臓病も増えています。健康保持の観点からも、医療費高騰を抑える観点からもCKD対策が急がれるゆえんです。
数の上では、軽度の人が多いです。CKDの予防はもちろんですが、たとえCKDとなっても、悪化しないように治療していくことが必要です。
CKDの特徴
- 高齢者に多い:加齢に伴って発症者が増えます。70歳代の約30%、80歳代の約45%が、GFR60未満(3a~5)のCKD患者さまです。
- タンパク尿、高血圧、糖尿病、喫煙が危険因子:タンパク尿の程度が高くなると、腎不全の発症率がはねあがります。
- 心血管疾患の恐れ:CKDがあると、心血管病になる危険性が4倍、虚血性心疾患の恐れが1.9倍高まります。1988-2000年の累積発症率では、CKDがあると心疾患発症率は、ない人より約3倍、高まります。
つまり、CKDを放っておくと、腎臓が悪くなって透析が必要になるだけでなく、心臓病にもかかってしまう恐れが高まります。正確な診断と治療が必要です。
慢性腎臓病の診断
診断は、血液検査、尿検査、画像検査の3つで行います。
血液検査
CRE、eGFR、イヌリンクリアランスの3つがあります。CRE(クレアチニン)は腎臓の働きが分かる検査です。筋肉の老廃物で、腎臓の機能が悪くなってくると体内に蓄積して高くなってきます。正常値は0.4~1.0mg/dlです。
eGFRは、推定糸球体濾過量です。CREの値、年齢、性別から推定した値で、おおまかに腎臓の機能を100点満点中何点かを表します。正常値は60ml/分/1.73m²以上です。
尿検査
タンパク尿と血尿をみます。タンパク尿+(30mg/dl)は、1日の尿量が1ℓであるとすると、300mgのタンパクが出ている状態です。タンパク尿++(100mg/dl)は、同様に1gのタンパクが出ていることになります。
ただし、タンパク尿は激しい運動の後や発熱の後などでは、一過性に検出されることがあります。尿タンパクが検出された場合は必ず再検査を受けてください。
血尿
見た目には分からないが尿試験紙で見つかる「顕微鏡的血尿」と、目で見て明らかに赤い尿やコーラ色の尿が出ている「肉眼的血尿」があります。
顕微鏡的血尿は、加齢とともに増加し、特に女性に多く見られます。約500万人に認められますが、実際に腎・尿路疾患のある人は2.3%、実際に尿路悪性腫瘍のある人は0.5%にとどまります。多くの人は治療を要さないですが、尿路系の悪性腫瘍を否定しておくことは必要です。
肉眼的血尿は、尿路上皮がん、腎がん、前立腺がん、尿路結石症、膀胱炎などが原因で出ることがあります。尿路系の悪性腫瘍の否定が必要です。泌尿器科を受診して、必ず検査を受けてください。
蛋白尿と血尿の両方が陽性の方は、腎臓内科を受診してください。
画像検査
腹部超音波検査(エコー)や、CT検査を行います。
結石などで尿への通り道がふさがれて水腎症になった場合や、腎がんの診断などに有効です。
尿の通り道がせきとめられた水腎症の人の超音波画像
矢印の部分に腫瘍が映っている。
以上をまとめると、診断は以下のように行います。
慢性腎臓病の治療
CKDの治療には、生活改善(規則正しい生活)、食事療法、血圧・糖尿病・脂質異常症・貧血・骨ミネラル代謝異常への対策が必要です。
生活(規則正しい生活)
禁煙が重要です。喫煙は、尿タンパク増加や腎機能低下をもたらします。適度な運動も重要です。肥満の予防、血圧、血糖値改善効果があり、CKDの進展予防になります。
食事療法(減塩とタンパク制限)
日本人の平均塩分摂取量は、1日11~12g程度ですが、CKDと高血圧では、1日6g以下に抑える必要があります。みそ汁1杯には通常2gの塩分が入っていることを参考にしてください。
タンパク制限はCKDと高血圧では1日0.6~0.8gとされていますが、なかには制限しないほうがいい患者さまもいますので、主治医と相談してください。
カリウム制限も必要です。CKDでは、カリウムを多く含む果物や、煮豆類や納豆、100%果汁、野菜ジュースなどの摂取を控える必要があります。管理栄養士とよく相談してください。
高血圧や糖尿病などを治療する
血圧とCKDの関係は以下のとおりです。
腎臓が悪くなってくると ⇒ 老廃物の排泄や体内水分量の調節ができない ⇒ 塩分や毒素がたまる ⇒ 血圧が上がり、糸球体に負荷が掛かる ⇒ 腎臓の機能の悪化
腎機能の悪化と高血圧は「悪のサイクル」です。これを断ち切るためには、血圧低下が必要です。生活習慣の改善と降圧薬治療で高血圧が低下できれば、腎機能の悪化を防げます。CKDでの目標血圧は、130/80mmHg未満です。ただし、もう少し高いほうがいい患者さまもおられますので、主治医と相談してください。
糖尿病の三大合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害です。このうち糖尿病性腎症は、透析導入原因疾患の第1位です。糖尿病性腎症の発症を抑えるために、CKDの治療が重要です。HbA1c7.0%未満が目標です。
このほか、脂質異常症や貧血、骨ミネラル代謝異常もCKDと密接に関連しています。LDLコレステロール値を薬で120mg/dl以下に抑えることや、貧血を改善する注射を打つ、リン吸着薬やビタミンD製剤の投与により血管の石灰化を防ぐなど、適切な治療を行うことで、CKDの悪化を防げます。
腎臓病の教育入院
自分の腎臓の機能はどれぐらいか正確に知りたい、食事療法について詳しく知りたい、CKDに合併する心臓病について詳しく調べてほしい、薬が自分に合っているか心配…など、さまざまな疑問をお持ちの患者さまに対して、洛和会音羽病院 腎臓内科では「腎臓病教育入院」を行っています。保険が適用されます。
検査は、心電図や超音波検査など、痛くない方法で行います。栄養指導は、入院初日と退院日の2回実施し、疑問に感じたことは栄養師に確認することで、家庭での食事制限が、より確実になります。服薬指導は、CKDの進展防止・合併症予防の重要性を理解していただきます。代替療法についても、パンフレットを用いて詳しく説明します。
万病のもとであるCKDの予防や治療に、ぜひ役立ててください。
プロフィール
洛和会音羽病院 透析センター センター長 兼 腎臓内科 部長 [リウマチ科 兼務]
山口 通雅(やまぐち ゆきなり)
- 専門領域
腎疾患全般、糖尿病性腎症、腹膜透析 - 専門医認定・資格など
日本内科学会認定内科医/総合内科専門医
日本腎臓学会腎臓専門医/指導医/評議員
日本透析医学会透析専門医/指導医
日本糖尿病学会専門医
日本リウマチ学会リウマチ専門医
臨床研修指導医
洛和会音羽病院 ホームページ
〒607-8062
京都市山科区音羽珍事町2
TEL:075(593)4111(代)