はじめに
腰痛は脊椎疾患の症状の中で一番多い症状です。ある統計では、65歳以上の人が訴えている症状で一番多い症状が腰痛、続いて頸部痛・肩こりで、ともに人口1,000人あたり100人近い人が訴えていました。
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腰痛を招く疾患は多い
腰痛を招く疾患は、整形外科の領域だけでなく、実は精神科領域の自律神経失調症や心身症をはじめ、内科・外科領域、婦人科領域、泌尿器科領域までたくさんあります。
整形外科領域でも、椎間板ヘルニア、変形性腰椎症、脊柱管狭窄症、すべり症、腰椎分離症、骨粗しょう症など原因になる病気は数多くあります。
加齢変化による疾患
その中で、加齢変化が原因で腰痛を起こす運動器疾患があります。主なものとして、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症性椎体骨折などがあります。
脊椎疾患の仕組み
脊椎疾患で代表的な疾患として、腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症があります。
どういう病気なのか、背骨の解剖図を見ると分かりやすいと思います。脊椎、いわゆる背骨は上から頸椎(椎体が上から7個)、胸椎(次の12個)、腰椎(その次の5個)、仙椎、尾椎に分かれています。
脊椎は、骨と骨の間に椎間板というクッションを挟む構造になっています。その構造により背中を曲げたり、姿勢を保ったりできるようになっています。
椎間板の変性、骨の変形などにより神経の通り道が狭くなり、神経を圧迫することで症状が生じます。首の部分で起きると頸椎症性脊髄症、腰で起きると腰椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症などになります。
腰椎間板ヘルニアとは
腰椎間板ヘルニアは、椎間板の変性に伴って生じます。
加齢とともに椎間板がつぶれてきて機能不全期となり、さらに進行すると椎間板の中央にある髄核という部分が神経の通り道にはみ出して神経を圧迫した状態が椎間板ヘルニアになります。
痛みの生じる仕組み
椎間板ヘルニアの症状が起きる仕組みを大きな断面図で見てみましょう。椎間板の変性により、椎間板の外側を構成する線維輪にひびが入り、そこから中央にある髄核が出て神経を圧迫します。
ヘルニアでは以下のような4つの症状が起きます。
- 腰痛
- 下肢でん部痛、しびれ感
- 下肢の知覚運動障害(まひ)
- ぼうこう直腸障害
腰椎椎間板ヘルニアの治療法
基本的な治療法は薬で症状を抑える保存療法になります。
薬物療法は、痛みに対しては鎮痛消炎剤や神経障害性疼痛(とうつう)治療薬、しびれに対してはVB12や抗不安薬、抗うつ薬を使います。
ただ、まひやぼうこう直腸障害がある場合は早期に手術をします。そうでない場合は基本的に1~2カ月程度、保存療法を行います。それで大半は治ります。
それでも症状が改善しない時や症状に耐えられない場合、あるいは社会的な理由で猶予できない場合は手術を選択します。
手術後は痛みに応じて少しずつベッドから立ち上がったり、歩いたりすることができ、通常は手術後1週間程度で退院できます。
腰部脊柱管狭窄症とは
腰部脊柱管狭窄症は、椎間板がつぶれたり、背骨が変形したり、靭帯が厚くなったりして神経の通り道が狭くなる疾患です。
次のような症状が起きます。
- 下肢でん部痛・しびれ感
- 下肢の知覚運動障害(まひ)
- 間欠性跛(は)行
- ぼうこう直腸障害
間欠性跛行とは
歩き始めたときはなんともありませんが、しばらくすると下肢にしびれや痛みが出て歩けなくなり、前かがみで少し休めば楽になりまた歩けるようになる症状のことをいいます。
間欠性跛行の代表的な疾患
間欠性跛行を招く代表的な疾患は2つあります。
腰部脊柱管狭窄症は中高齢の方に起こりやすく、腰部の姿勢に関連し、背中を後ろに反らすと症状が誘発されます。
一方、閉塞性動脈硬化症に伴うものもあります。この場合は腰部の姿勢は無関係で、下肢の運動によって症状が誘発されます。
腰部脊柱管狭窄症のADL(日常生活動作)上の注意
腰部脊柱管狭窄症の場合、前かがみにして歩幅を小さくし、ゆっくり、短い距離を歩くと神経の圧迫が抑えられ、痛みが和らぎます。
また、高い所の物を取ったり重い物を持ったりしないこと、肥満にならないように気を付けることも大切です。
腰部脊柱管狭窄症の治療法
まずは薬物療法とリハビリテーションで様子を見ることが多いです。
薬物療法では、痛みに対しては鎮痛消炎剤や神経障害性疼痛治療薬、筋弛緩剤、しびれに対してはVB12や抗不安剤や抗うつ剤を使います。間欠性跛行には、PGE1製剤(内服)を使います。
手術は、日常生活に制限のかかる状態であり、かつ、保存的治療に抵抗性のある頑固な下肢痛がある場合や、重篤な間欠性跛行があったり安静時に強い痛みを感じたりする場合に選択されます。また、急速に神経症状が進行する場合や筋力低下、ぼうこう直腸障害がある場合は早期に手術を行います。
手術の効果は
手術は神経の圧迫を取り除いたり、骨のぐらつきを治す手術になります。手術により症状の進行をとめたり、症状を改善させることはできます。しかし、神経そのものを治す治療法は現時点では存在しません。そのため、すべての症状を取り除くことは難しいです。術後は通常、1~2週間程度で退院できます。
まとめ
加齢による変化が原因となった脊椎疾患の多くは、まず保存療法から開始することが多いです。
保存療法でも症状が改善されない場合や、まひ、ぼうこう直腸障害がある場合は手術となることが多いです。
質疑応答から
Q 薬を飲んでいても腰痛が治らないのですが。
A 薬もたくさん種類があります。薬の効き方と副作用を見ながら、薬の種類を変える方法があるのかもしれません。薬を変えても良くならない場合は、手術も選択肢の一つになるかと思います。
Q 痛みがあるとき、温めたり冷やしたりしますが、どちらがいいのですか?
A 急性期は冷やし、慢性期には温めると症状が改善することが多いです。
プロフィール
洛和会丸太町病院 整形外科
医員
石橋 秀信(いしばし ひでのぶ)
- 専門領域
脊椎外科、脊椎脊髄外科 - 専門医認定・資格など
日本整形外科学会専門医/認定脊椎脊髄病医
日本医師会認定産業医
医学博士
洛和会丸太町病院 ホームページ
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