はじめに
私は認知症の方の共同生活型介護施設であるグループホームで仕事をしています。今日は認知症とはどういう病気なのか、予防できるのか、そして家族や自分が認知症になったらどうしたらいいのかについてお話させてもらいます。
皆さん、昨日、晩ご飯を食べられましたか? すぐ答えられた人も「何を食べましたか?」と聞かれると、すぐには思い出せないのではないでしょうか。「最近よく忘れるなぁ…」「何買うんだったかな…」「お鍋に火を掛けていたのを忘れていた…」こういう経験が実は意外に多いと思います。物忘れというとすぐ認知症を連想してしまいますが、実は物忘れと認知症は違ったものなんです。
物忘れと認知症は違う
では、老化による物忘れと認知症はどう違うのでしょうか。
一番分かりやすい違いは、老化による物忘れは体験したことの一部を忘れ、ヒントがあれば思い出しますが、認知症の場合は体験したことを丸ごと忘れており、ヒントがあっても思い出せません。物忘れの度合いも老化に伴うものはあまり進行しませんが、認知症の場合はだんだん進行します。
判断力も老化の場合は低下しませんが、認知症では低下します。また、老化による場合は忘れっぽいことを自覚していますが、認知症では忘れたことの自覚がありません。老化の場合は日常生活に支障がありませんが、認知症では支障が生じます。
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では認知症とは
認知症とは何なのでしょう。「認知症」という名前の一つの病気があるわけでありません。いろんな症状をまとめて言う言葉が「認知症」なのです。
専門的に言うと、認知症の状態とは認知機能障害、つまり「もの忘れ」「自分の周囲の状況が分からない」「理解力低下」「判断力低下」を起こしており、日常生活と社会生活上に支障があり生活障害が存在する状態です。
これを日本神経学会治療ガイドラインでは「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来すようになった状態」と定義しています。そういう状態が6カ月以上継続していると認知症です。
現在、日本では軽度認知障害(MCI)を含めると、65歳以上の4人に1人が認知症か認知症予備群と言われています。高齢化に伴って大変増えています。
認知症を引き起こす病気は?
認知症を引き起こす病気はたくさんありますが、主なものはアルツハイマー型と脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症です。それぞれ認知症全体の67.6%、19.5%、4.3%、1.0%を占めています。
アルツハイマー型は脳内にたまった異常なタンパク質により神経細胞が破壊され脳に萎縮が起きます。昔のことはよく覚えていますが、最近のことは忘れてしまいます。軽度の物忘れから徐々に進行し、やがて時間や場所の感覚がなくなっていきます。
脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血により脳細胞に十分な血液が送られず、脳細胞が死んでしまう病気です。高血圧、糖尿病など生活習慣病が主な原因です。脳血管障害が起きるたびに段階的に進行します。障害を受けた脳の部位によって症状が異なります。
レビー小体型認知症は、脳内にたまったレビー小体という特殊なタンパク質により脳の組織が破壊されて起き、現実にないものが見える幻視や手足が震えたり筋肉が硬くなるといった症状が現れます。
治療可能な認知症も
でも、認知症の中には治療により症状が改善するものもあります。
- 甲状腺機能低下症(意欲低下・表情の乏しさなど)
- 正常圧水頭症(歩行障害・失禁など)
- 慢性硬膜下血腫(頭痛、麻痺など)
- ビタミンB12欠乏症
- アルコール依存症
- 精神的ストレス・うつ病
以上のようなものが原因の場合は治療により改善します。
認知症の症状はどんなものが
認知症の主な症状は、脳の神経細胞の障害によって起きる「中核症状」と、中核症状に環境要因や身体要因、心理要因などが相互作用し、さまざまな精神症状や行動障害を起こす「行動・心理症状」があります。
記憶の障害
中核症状の「記憶の障害」は、新しく記憶することが難しくなる障害です。
加齢に伴う物忘れと、認知症のもの忘れを区別するポイントは次の2点です。
- 物忘れの自覚があるかどうか(自覚があれば、忘れたと思って探します。そういう自覚がない認知症の人は「誰かに盗まれた」と言って騒ぎます)
- 出来事全体を忘れてしまっているか、どうか(夕食のメニューを忘れても食べたことを覚えているのは認知症ではありません。認知症の場合、夕食を食べたこと自体も忘れてしまいます)
見当識障害
もう一つの中核障害が「見当識障害」です。見当識とは、自分の周囲の状況を理解する能力です。自分の周りのことが分かるとは、時間(時刻・日付・季節)、場所(自分がどこにいるか)、人(自分の周囲にいる人が誰か)が分かることです。認知症になると、時間→場所→人の順番で記憶障害が起きていきます。
実行機能障害
次の中核障害である「実行機能障害」が起きると、物事を行う時に計画を立て、順序立てて効率よく行うことが難しくなります。例えば、食事の準備ができなくなります。
また、理解・判断力の低下も招きます。理解するのに時間がかかり、目に見えないものが理解しにくい(例えば、自動販売機など新しい物の使い方が分からない)、あいまいな表現が理解・判断しにくい、善悪の判断がつきにくくなる、といった症状が出ます。
失語・失認・失行も
そのほか、中核障害では「失語」「失認」「失行」という症状も出ます。
「失語」は言葉の理解・表出が難しくなります。音として聞こえていても、話として理解できず、自分でも相手に伝わるように話すことが難しくなります。「失認」は、自分の身体の状態や自分と物との位置関係を理解することが難しくなります。例えば迷子になるなど。「失行」は「お茶を入れる」「服を着る」といった日常的な動作や物の操作ができなくなります。
行動・心理症状(BPSD)
中核症状に性格や素質、環境、心理状態が作用して起きるのが「行動・心理症状(BPSD)」です。
次のような症状例が見られます。
- 能力の低下を自覚→元気がなくなり引っ込み思案になる
- 今までできたことがうまくできなくなる→自信を失い全てが面倒になる
- 物をしまった場所が分からなくなる→他人から物を盗まれたという妄想
- 嫁が家の財産を狙っているといった妄想→オーバーな訴えや、行動がちぐはぐになり徘徊する
ほかに暴力(イライラして手が出る)、不眠、不安、焦燥感、意欲低下、うつ状態、異食、介護への抵抗などの症状も起きます。
こういう症状は、多くは身近な人や地域の人が気付きます。
あれ? おかしいな…と思ったら
自分が、家族が、こういう症状を見せ始めたら、一人で悩まず、専門家に相談しましょう。
相談先は以下のようなところがあります。
- かかりつけ医(歯科医や薬剤師でも)
- 医療機関の物忘れ外来
- 地域包括支援センター
- 認知症の電話相談
また、グループホームなど認知症介護を専門としている事業所などでも相談すれば一緒に考えることができます。
認知症チェックリストです
以下、「認知症と家族の会」が作った認知症のチェックリストです。早期発見に生かしてください。いくつか思い当たる項目があれば早めに専門医に相談してください。
家族や周囲の人の基本姿勢
認知症は誰にも起きる可能性があります。認知症の本人に自覚がないというのは間違いです。最初に症状に気付き、誰よりも不安になって苦しむのは本人だといわれています。
認知症の人は理解力が衰えていますが、感情面はとても繊細です。温かく見守り適切な援助を受ければ、自分で行えることも増えてきます。家族や周囲の人は認知症を正しく理解し、さりげなく自然で優しいサポートをしてください。
認知症の方にとっては、周囲の接し方自体が状態の安定や向上に向けた重要なケアになります。
次の3点が守ってほしい基本姿勢です。
- 驚かせない
- 急がせない
- 自尊心を傷つけない
接し方の7つのポイント
そして、次の7点が認知症の人に接する際の具体的なポイントです。
- まずは見守る
- 優しい口調
- 余裕を持って対応する
- 穏やかに、はっきりした話し方
- 声を掛けるときは1人で
- 後ろから声を掛けない
- 相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応する
認知症の予防のために
認知症の予防のためには、次の4つを大切にして取り組んでください。症状が始まっている人も進行を遅らせることができます。
- 頭の体操(2つのことを同時に行う。脳トレなど)
- 適度な運動(定期的な運動習慣)
- バランスの良い食事(脳梗塞の予防や生活習慣病の予防)
- 早期発見・早期受診(症状の進行の緩和につながります)
まとめ
認知症は、早期発見、早期受診で症状の進行を緩和させられます。また、すぐに全てのことを忘れるわけではありません。地域の中や病院には相談できる場所がありますし、認知症になっても地域や自宅で暮らす方法はあります。
認知症の方にとって暮らしやすい環境は、誰にとっても暮らしやすい環境です。誰もが安心して暮らしていける環境を作っていきましょう!
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